槍 6
「皆さんそれぞれ、母国を憂えての事なのでしょう。
ただいささか、ローブ様より視野が狭いのです。
往々にして古くから争いは、そうした視野の狭さから起こっているようですし」
「別に俺は、特別視野が広いわけじゃねえさ」
ローブは木の粗末な椅子に、背もたれに向かって座り、背もたれに顎を乗せて駄々っ子のような顔になった。
「これから起こることと比べて、自分と教会の未来に興味がねぇだけだ」
その二日後、教皇主催の祝賀会もつつがなく終わり、いよいよ実務者協議が始まった。
二十三の国の特使が、大聖堂の大講堂に集まる。
軍事的色彩の強い会議のため、軍人らしい姿が目立った。
トルキスタ聖教からは、聖騎士団総帥のロド、実質的とりまとめ役のローブ、フォルタを中心とした補佐官六名、そして大講堂の外にシ・ルシオンが控えた。
また、会議が始まった直後、オデュセウスが大聖堂裏手にやってきた。
「旦那とオデュセウスは、とりあえずいてくれ。
もしかすると逃げ出すかも知れないからな」
といってローブは笑っていたが、明らかに本音ではない顔だった。
会場は、異様な緊張感と、表面上の和やかさに満たされていた。
まず第一に各国は、今回の会合の趣旨について、
「有事における各国の協力体制の確立」
という題目以外、あまり詳しくは知らされていない。
そもそも今回のような世界的会合自体、歴史上初めてと言って良かった。
ローブはそこを強調して呼びかけていたし、世界の列強としては、それぞれの利害は守る意識は強いものの、参加しないわけにはいかない。