氷の女神 2
『でも、頼まなければ良かった。
あなたの手が、ひどいことに』
「構わぬ」
それ以上シ・ルシオンは何も言わなかった。
女の声も、戸惑ったまま、しばらく途絶えた。
吹雪はひどい。
『あなたはいつもそう。
いつも犠牲になりすぎるわ。
そのくせ、また沢山人を殺した』
「俺は戦士だ」
『あんなに殺さなくてもいいじゃありませんか』
「俺は戦場では、皆殺しすることにしてる」
責めても無駄なのを悟ったのか、女は哀しげな溜息をついた。
『何もかも無茶な人』
心に響く声が、涙に震える様だった。
「そんなことより、魔馬車は?」
シ・ルシオンは、女の泣き声にも全く動じない。
無感動と言うより、鉄の意思が彼をそうさせている様だ。
氷の中の女にも、それはわかっていた。
わかってはいても、女は諫めたくなるらしかった。
『マルゴー遺跡にいます。
途方に暮れて』
「わかった」
『駄目よ』
すぐに立ち去ろうとする戦士を、女は止めた。
『今行けば、戦いになるわ。
もう少し落ち着いてからの方が良くないかしら』
「戦って朽ちるのなら、互いにそれまでだ」
そう言い捨てて、シ・ルシオンは氷の中の女に背を向けた。
「また様子を見ていてくれ」
一言そう残して、彼は立ち去った。