槍 5
「あんたとオデュセウスがいる部隊は、ある程度戦えるだろう。
それについてはあまり心配していない。
移動も恐ろしく速いから、あちこちの援護にも走り回ってもらうだろう。
問題は、援護が間に合わなかったり、同時にいくつもの戦闘が起こった場合だ。
実際ブサナベンの時には、そういう事例がいくつもあったようだ。
ドルアーノのいる戦場はもっぱら勝てたが、それ以外は、力で負ける事がよくあったらしい。
とすれば、力と力のぶつかり合いを、どうやって回避するかが、主な命題となる」
ローブは金色の少し長い髪を、右手でつかんだ。
「と、口で言うのは簡単なんだけどね」
ローブは額を右手でこすり、ため息をついた。
それから二十日あまり経った頃から、各国の使節団がトルキスタ教皇庁にぱらぱらと集まり始めた。
主だったところでは、南方ベシュイラ帝国元帥のゴート、東方アーグ王国の双璧イシュマイルとベネン、北方ルビアの将軍ガイル、そしてホルツザムの将軍バイペルが挙げられた。
文明交流のある主要国二十三が、数日のうちに揃った。
会議はトルキスタ大聖堂の大講堂が使われた。
各国の使節達は必ずしもトルキスタ教徒ではなく、他の宗教を信じる者もいたため、多少手こずったが、
「優位性を取りたいってことさ」
とローブに見抜かれていた。
実際ローブが直接出向き、
「もちろん、無理に参加なさらなくても結構ですよ。
ただ、今のところ他の各国には、別の会場の確保が難しい旨、ご理解いただいております。
とは言え、皆様の宗教上の問題については、我々としてはとやかく言う立場にはございません。
しかし、懸念として、万一の際はその、互いの協調関係として、優先順位的に、実際、どうなんでしょう、懸念材料としては、微妙なところを、お感じになるかも知れません」
と、ローブにさも心配している顔で、ひどく遠回しに言われると、いきり立っていた使節達も、受け入れざるを得なかった。
「くだらねぇ」
ローブはフォルタに言った。
「誰も彼も、自分、自分、自分だ。
自分に向かっていて、一体なにができるってんだ」
ローブが荒れるのはそう珍しくない。
フォルタは一旦下がり、温かい茶を入れて戻ってきた穏やかになだめた。