槍 4
シ・ルシオンとオデュセウスは、槍が完成するまで、一旦トルキスタ大聖堂へ戻った。
普通の馬で十日以上かかる距離でも、オデュセウスが駆ければせいぜい二日で戻れる。
馬車は専用の車庫に収まり、巨人は一人、ローブの所へ向かった。
「あぁ、お帰り」
相変わらずローブは地下の執務室にいる。
最近はシ・ルシオンの働きによる功績も大きく、望めばいつでも立派な執務室もあてがわれただろうが、ローブはここを離れようとしない。
「別に偉くなりたくないからな。
うっとうしいだけだ」
助手のフォルタにはよくそう言っている。
今日もローブは、一人で書類のチェックをしていた。
「旦那、そろそろ、動くようだ」
彼は大陸中に密偵を出している。
マイクラ・シテアの動向はそうした密偵からつぶさにもたらされる。
大賢者ソルドが残した古代の教典とそれらの情報を照らし合わせ、次の一手を準備する日々である。
「ソルドの記述では、大魔導師ブサナベンが魔界の金属を取り出せるようになったあと、しばらくして世界中に魔物の軍勢が現れ始めたらしい。
ブサナベンの古文書も、魔族の大量召喚のついての記述があるらしいから、いよいよ決戦の時って感じだな。
旦那、あんたにとっちゃ、お待ちかねってところだ」
ローブはへらへら笑っている。
シ・ルシオンは何も応えない。
「各国には、とりあえず互いの協定のもと、可能な範囲内で軍備の強化を促してる。
教会としても、ある程度の援助もしている。
勿論教会の騎士団は、ロド総帥の指揮で強化してる。
近く、各国の首脳や軍総帥をこの大聖堂に呼び寄せる手筈になってる」
そこでローブは一呼吸入れる。
「俺も国際デビューさ」
彼は両手を芝居じみて広げてみせた。
シ・ルシオンは無反応だが、ローブは気にもとめない。
「問題は、魔族がどこからやってくるかだ。
ソルドの記述によると、ブサナベンの魔軍は、方々から現れたらしい。
果たして各国の軍が、それをどこまで抑えられるか」
ローブは二重の綺麗な形の目を少し細め、目だけで左上をちらりと見た。