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魔帝  作者: 松本 力
127/192

槍 3

 オデュセウスは巨人に尋ねた。


「腕のいい鍛冶屋がいる。

 俺の剣も、奴が鍛えた物だ。

 もうすぐ来る」


 巨人はそう応えた。


「故郷ではないのか」


「俺には子供の頃の記憶がない。

 俺の最初の記憶は、戦場で走っていた時だ」


 オデュセウスは驚いた。


「記憶がない?」


「ああ」


 それきり黙ってしまう巨人に、オデュセウスはどう言葉を続けたらいいか判らなかった。


 ほどなく巨人は、馬車で腰掛け腕組みのまま、寝入ってしまった。

オデュセウスは仕方なく、黙っていた。

しばらくすると巨人は再び目を覚ました。


 それからわずかに遅れて、オデュセウスも気配に気付いた。

気配というよりも、それはわずかに漂う剃刀のような殺気であった。


 オデュセウスはそちらに目を向ける。

村の方から、人が一人やって来るのが見えた。

まだ随分遠いが、彼らはその気配に気付いたのだ。


 やがてその人は、彼らの所へやってきた。

 すらりと背の高い、美しい壮年の女だ。

他の村人とは明らかに違う、異様な迫力がある。

なぜこの女がこの村にいるのか、オデュセウスは理解に苦しんだ。


「妙な鋼だ」


 少し低く凛々しい声で、女は言った。


「鉄に似ているが、血生臭すぎる。

 腐った屍でできているようだ」


 女は、深く刻まれた眉間の皺の下から、ギラリとオデュセウスを睨みつけた。


「しかもこの馬には、鋼を鍛えた跡がない。

 しかし恐ろしくしなやかで丈夫だ。

 細工も優れている。

 途方もなく深い恨みや執念のたぐいが滲んでいる。

 一体誰がどうやってこんな妙な代物を作ったのか」


 ぶつぶつと苦々しげに女は独り言を言った。

その後一呼吸置いてから、呟いた。


「不吉だね。

 私が言うのもなんだが」


 彼女は少しため息をついたあと、シ・ルシオンを見上げた。


「これに乗ってあんたが槍を振り回すのか?

 それでこの世の物でない化け物を無数に斬るわけか。

 馬鹿言うな」


 いかにも呆れた様子で、女は肩をすくめた。


「まったく、これだから素人は嫌いなんだ。

 できるかどうかも考えずに無理難題を投げつける」


 また女はぶつぶつ言っている。

顎に手を当て、その辺りをうろつき、やがて巨人と巨馬に背を向けた。


「一ヶ月待ってな」


 女は頭を掻きながら去っていった。

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