槍 2
「ただし、作る前に、その槍をどうやって使うかは見ておいてほしい。
俺と一緒に、俺の乗ってきた馬車のところへ行ってくれ」
そうするとまた女は手を止め、シ・ルシオンを横目でちらりと見て、その後また鎚で赤い鉄を打ち始めた。
「これができてからだ。
その辺で待ってな」
ぶっきらぼうに言って、それきり女は鎚打ちに没頭した。
シ・ルシオンは女の工房を後にした。
彼は村はずれで待っているオデュセウスの所へ戻った。
村人達が何人か、いかにも興味深げに、鋼の馬車を取り囲んでいる。
恐れた様子もなく、子供達も平気でまとわりついている。
「あ、旦那だ」
誰かがシ・ルシオンに気づいて呼ばわった。
「旦那、この馬は、すごいねぇ」
「鋼でできてるのかい?
どうやって動いてるんだろうねぇ」
「でも、こんなにでかくて恐ろしげなのに、子供は平気なんだよねぇ」
村人達は口々に鋼の巨馬について喋った。
オデュセウスは静かに佇んだままだが、多少困惑した様子だった。
「まぁそう騒ぐな、困っているようだ」
穏やかにシ・ルシオンが助け船を出す。
オデュセウスは意外に思っていた。
シ・ルシオンがこれほど穏やかなのは、他では決して見ることがない。
寡黙で、何事にも眉一つ動かさず、戦場では鬼神のごとき殺戮をする。
そして自分自身、この巨人にに斬られた。
ふとオデュセウスは、自らもそうではなかったかと感じた。
ホルツザムの突撃隊長と言えば、泣く子も黙る戦場の鬼だった。
だが彼は、自分では平凡な男に過ぎないと思っていた。
その乖離に違和感もあった。
そう思えば、あまりにも超越的すぎるこの巨人が、多少理解できる気がした。
子供達が、好き勝手に馬車によじ登る。
巨人の腕にぶら下がる。
谷合の涼やかな風が、彼らをすり抜ける。
木々はざわめき、周囲に広がる黄金の麦畑が波打った。
やがて集まっていた村人達は、無口な巨人に飽きたのか、畑仕事に戻っていった。
それを見届けると、シ・ルシオンは馬車に乗り、腰をかけた。
「ここは、どういうところなのだ」