表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔帝  作者: 松本 力
125/192

槍 1

 シ・ルシオンは、オデュセウスと共に、ザーグ砦の南、辺境の小さな村にやってきた。

麦畑が青く波打つ、丘に囲まれた村だった。


 漆黒の巨大な馬車が現れたので勿論騒ぎになるが、馬車に乗っていたのがシ・ルシオンと知ると、村人達は落ち着きを取り戻した。


 シ・ルシオンは馬車を下り、一人で村へ向かった。


「また、イルメーラのところかね」


「ああ」


 農作業の手を止めて、老若男女の村人達が、彼の通り過ぎる度に尋ねる。

シ・ルシオンは珍しく穏やかな顔付きでそれに応えていた。

遠くからその様子を眺めていて、オデュセウスは不思議だった。


 シ・ルシオンが向かったのは、村の奥、少しはずれにある鍛冶小屋だった。


 粗末で、だが整理の行き届いた外観である。

鋼を打つ鎚の音が響いている。

が、シ・ルシオンの気配に気づいたのか、その音は不意に止まった。


 それ以外に反応はない。

シ・ルシオンは迷うことなく、小屋に足を踏み入れた。


「一体何を斬ってきたんだ、銅と亜鉛の血とは」


 大型の釜の前に、女が座っている。

 中年だが、仕事柄かよく鍛え上げられたしなやかな体つきの美しい女だった。

シ・ルシオンの方をわずかに横目で見やり、また釜の中に目を戻す。

農作業の用具を鍛えているらしかった。


「魔物だ」


「それなら納得もいく。

 あんたと一緒にきた金属の塊は、もっと変だ。

 この世の物ではないね」


「奴の体も、魔界の物らしい」


 女は鎚を再び振り上げ、鉄を打ち始めた。


「で、その剣の修理かい」


「それもだが、槍を作ってくれ」


 すると女は、ふいごを漕いでいた足を止め、少し考えた後、ため息をついた。


「日がかかるよ。

 どうせあんたの事だ、馬鹿でかいのを作れというんだろ。

 こんな田舎にそうそう材料はないんだよ」


「構わん」


 シ・ルシオンは素直にそう応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ