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魔帝  作者: 松本 力
121/192

杖 9

 石畳の暗い回廊の果てで、けたたましい金属音が響く。

牢の鍵を開け、誰かが入ってくる音だった。

二人いる。

あまりにも音が反響しすぎて、何を喋っているかはわからない。

が、低く暗い声であることと、監視人でない人であることはわかった。


 この牢獄は滅多に使われないし、実際今投獄されているのも自分一人だけだったから、自分に用事があるのだろうとは、想像がついた。


 ファリアヌスは痩せこけ、髭面で、薄く長い髪はべったりと顔に張り付いていた。

投獄されて十日になる。最初の数日は泣き叫んでいたが、この所はただぼんやりと天井の汚れを眺めていた。

彼の個室は狭い。

煉瓦壁で、窓はない。

わずかにランプの頼りない灯りが揺れている。

調度品は、ファリアヌスの座っている固い木のベンチと、便器代わりの桶だけだ。

通路に面するところは全面格子で、巨大な錠がかかっている。

馬鹿でもわかるぐらい、逃げられない。


 面会には誰も来ない。

父も母も、執事も来ない。

来るのは一日二回の、汚らしい食事だけ。

最初は嫌ったが、三日目にむさぼり喰った。

そうやって十日過ごした。


 今日やってきたのは、ランタンを手にした武骨な男二人だった。

知り合いかとの期待は、外れた。


 男二人は牢の鍵をがしゃがしゃと開け、低い扉をくぐって中に入ってきた。

散々糞尿を垂らしているので、酷い異臭に顔をゆがませている。

だがやがて、中年の恰幅のいい方が、口を開いた。


「ルーベン・ファリアヌス子爵閣下、私は陛下の親衛隊長を勤める、ビケ少将と申します。

 この度は、お父上であるルーベン伯、および此度の被害者の父君、バンスファルト伯の特別なる計らいで、本日、本牢内での自決を許されました。

 お覚悟を召されよ」


 なにがし少将は、時折生唾を飲み込みつつ、いかにもという棒読みで、覚えた台詞を言った。

 そして懐から巻いた羊皮紙を広げ、ファリアヌスに見せた。

そこには、見慣れた父のサインとルーベン家の刻印、その横にバンスファルトと読めるサインと刻印がある。


 そしてその先には、


「ルーベン・ファリアヌス子爵の自決に同意する」


と、短く書かれている。


 少将は、嘆息しながら言った。


「伯爵としての地位と、政治家としての実績もある両閣下が、それぞれ声を上げて泣かれた。

 お二人は互いに良き同僚であり、友人であられる。

 貴卿にその気持ちがわかるかね」

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