杖 8
「わしはやがてこの世を支配し、破壊する者じゃ。
貴様のごとき虫けらはわしにひれ伏して当然。
どう思うかね、ご令嬢」
すると、突然なにかボールの様な物がファリアヌスの側に転がった。
何かと思って見ると、それは女の首、しかも先ほど自分が殺したバンスファルト伯爵令嬢のそれだった。
令嬢の首は、ファリアヌスを凄まじい怒りに満ちた形相で睨み付けた。
「このゲス、卑怯者、臆病者、お前が死ねば良かったのに!
その上、この世界の王たるマイクラ・シテア様に、何という無礼極まりない態度なの!」
伯爵令嬢の首は、ファリアヌスに緑色の唾を吐きつけた。
それはファリアヌスの頬に当たる。
するとそこが焼けて、煙が出た。
「あつい、あつい!」
ファリアヌスは頬を擦って何とかしようとした。
すると皮膚がずるりと剥がれた。
「いやだぁあぁ」
「無様でいい気味よ、いい気味いい気味いぃぃ」
首はゲラゲラ笑って、そして灯りが消えるように忽然と消えた。
「で、どうしてほしいのかね、ファリアヌス子爵閣下」
地鳴りのような声が再び頭蓋を揺さぶる。
「わわわわかった、わたわた私を、私に、オデュセウスを殺す力を、お与えくださいませぇ!」
ファリアヌスは懇願した。
闇の空間全体が、禍々しくにたりと微笑んだ。
「よかろう」
再びファリアヌスの目の前で、紅い宝玉がぎらりと燃え上がる。
その渦巻く光はじわりと広がり、やがてファリアヌスの視界を全て覆った。
と同時に彼の胸に焼き鏝のような痛みが走る。
「熱い痛い痛いやめてやめてああぁあぁ」
彼は狂わんばかりに叫ぶ。
しかし焼き鏝はあばらを突き破り、やがて心臓に達した。
ファリアヌスはここで意識を失い、痛みから逃れた。