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魔帝  作者: 松本 力
118/192

杖 6

「子爵閣下、どなたと争われました?」


 わずかに目を細めた兵士のいかつい顔が、ファリアヌスには鬼に見えた。

膝がわなわなと震え、喉が焼け付いた。


「閣下」


 兵士が一歩詰め寄る。

途端にファリアヌスは、


「無礼者」


と喚き、転ぶように逃げ出した。

兵は追いかけようとしたが、相手が上級貴族であり、躊躇った挙げ句、追いかけられなかった。


 ファリアヌスは逃げ惑った。

周りにいる全てが、自分が人殺しであることをきっと知っている。

しかもそれは、バンスファルト伯爵令嬢である。


「あ、はぁあ、いいいかん、レイ、レイピアに」


 彼は、どこかで捨ててきた剣の束に、ルーベン家の紋章があるのを思い出した。

それを見れば、もはや自分が犯人であることは、証明されたようなものだった。


 彼はとりあえず隠れようと思った。

あたりを見渡すと、庭師たちが使っているとおぼしい小さな小屋がある。

ファリアヌスは、夢中でそれに駆け寄る。

かんぬきには錠もかかっておらず、立て付けの悪い引き戸を無理矢理開け、中に入った。

酷い埃の臭いがして、むせた。

暗くてよく見えないが、彼はしばらくそこで息を潜めた。


「ようこそ、人殺し子爵殿ぅひゃひゃひゃ」


 地獄から這い出てくるような声が、いきなり脳髄に響いた。


「うわあぁ!」


 ファリアヌスは叫び、たちまち失禁した。

腰を抜かし、小屋の中で無様に這い回る。


「ひゃははは、面白くて汚いけだものだぁひゃひゃ。

 オデュセウスはわしに剣で斬りつけてきたが、その自称ライバルは、おもらしだぁひひ」


 ファリアヌスの体が、無数のウジ虫が全身を包むような感触に襲われる。

ふと手元や胸元を見れば、赤黒く粘つく血の塊が、ざわざわと体を包み込んでいた。


「ひ、ひぃやぁあぁ」


 ファリアヌスは絶叫する。


「うるさいよ、このくずが」


 脳にがんがん響く闇の声が、急に猛烈な殺気を帯びる。

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