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魔帝  作者: 松本 力
116/192

杖 4

「だが英雄将軍殿、あの化け物を凌ぐ力を手に入れ、甦れるとしたらどうかね。

 奴を踏みにじり、引き裂いてみたいとは思わぬか?」


 洟を垂らす英雄の嗚咽が止まった。


 二日後、英雄将軍バルザムは死去した。

享年七十。

この時代は大体五十前後が寿命であったため、かなり長生きの部類だった。

長年戦争を続けていたバルダとも先日休戦となっていたため、後継者の選定で慌てることもなかった。

軍部は国の西域担当の将軍バイペルを順当に総帥とし、国王セルジオもそれを承認した。

バイペルはバルザムのような英雄ではなかったが、西南からやってくる部族をうまく処理する能吏だった。

大規模な戦争が考えにくい今は、ある程度合理的な人事と言えた。


 またしても国葬が準備された。

先日行われたオデュセウスのそれよりも、遙かに規模が大きい。

半世紀にわたりホルツザム軍を支えた英雄将軍は、やはりホルツザムの民衆にとって、計り知れないほど偉大だった。


 その準備が行われている最中、一人の男が花束を手に、美しい貴族の令嬢と向かい合っていた。

場所は王宮の庭園内、若干人の気配が少ない場所で、貴族の子女たちがしばしば愛を語らう場所である。

そういう意味でこの状況は、この場所ではありふれていた。


 女性はその美貌で有名なバンスファルト伯爵令嬢である。

対するのは、小柄でひ弱で腹が出て、薄い髪を伸ばして顔の前に垂らしている、実に貧相な男だった。


 ファリアヌスである。


 彼はこれでも子爵である。

しかも父はルーベン伯爵。

同じ伯爵の子女同士、位としての釣り合いはとれている。


「お久しぶりです、フロイライン・バンスファルト」


「……ええ」


 令嬢の面もちは、明らかに嫌そうだ。

まともに男と目を合わせようともしない。

二十歳前のふっくらした頬が、心なしか青ざめている。


「私は、前々からあなたの、その、美しさが、素晴らしいと、思っていました」


「ありがとうございます」


 露骨な社交辞令で令嬢は返事する。


「私達は共に伯爵家の血を引き継ぐ者。

 互いの家系の繁栄のために、我々はその」


「で、今日のご用は何でしょう?」


 令嬢は苛々して鋭く言った。


「フロイライン?」

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