杖 3
寝台に横たわり、侍従にそう力なく呟く姿は、もはや歴戦の猛将ではなかった。
そんなある夜である。
「無様な年寄りよな」
脳髄に直接這い入ってくるような、身の毛のよだつ声に、バルザムは仰天して目を覚ました。
その刹那、彼はまだ自分が悪夢を見ている途中だと思った。
正確には、そうであってほしいと思った。
そこには黒い陰がいた。
目が赤く光り、その周囲には限りない数の死者の嘆きが渦巻いていた。
「これが死神か」
バルザムはそう思った。
が、
「死神?
あの程度の無力な輩と一緒にしてもらっては困りますよ、英雄将軍殿ぅふふぁふぁひひ」
という影の笑い声に、バルザムは半狂乱に恐れおののいた。
「英雄将軍殿、あなたは明後日、めでたく死にます」
「だ、だ」
バルザムは必死で「黙れ」と叫ぼうとした。
しかし喉は焼け付き、ひゅうひゅうと鳴るだけだった。
影から突如、紫色の巨大な老人の顔が突き出てくる。
歯はなく、しわだらけで、しかし強烈な悪意がほとばしる顔だった。
「貴様は悔しかろう。
シ・ルシオンとかいう化け物に、貴様の栄光はズタズタにされた。
ドバイルという小僧にも多少やられたが、まだまともな戦になっただけに、言い訳も立つ。
しかし、勝ち戦をあの化け物にひっくり返され、何度も大恥をかいた。
死ぬ間際にも、最高の手駒を擁してもだ。
奴の前では、英雄将軍どころか、愚鈍な将軍に過ぎなかった。
そうじゃろう?」
バルザムは心臓をえぐられた気がした。
わなわなと震え、叫ぼうとしてもそれさえできず、やがてはらはらと涙をこぼした。
「しかしこの老いぼれの寝たきりでは、復讐も叶わぬ夢。
このまま屈辱にまみれて死ぬ。
何と哀れな英雄将軍であることかぁひゃひゃひひ」
紫の顔が残忍な哄笑で歪む。
無力なバルザムは、気も狂わんばかりに怒り、嗚咽した。
突如その目の前に、紅くぎらぎらと渦巻く宝玉が出現した。