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魔帝  作者: 松本 力
115/192

杖 3

 寝台に横たわり、侍従にそう力なく呟く姿は、もはや歴戦の猛将ではなかった。


 そんなある夜である。


「無様な年寄りよな」


 脳髄に直接這い入ってくるような、身の毛のよだつ声に、バルザムは仰天して目を覚ました。


 その刹那、彼はまだ自分が悪夢を見ている途中だと思った。

正確には、そうであってほしいと思った。


 そこには黒い陰がいた。

目が赤く光り、その周囲には限りない数の死者の嘆きが渦巻いていた。


「これが死神か」


 バルザムはそう思った。


 が、


「死神?

 あの程度の無力な輩と一緒にしてもらっては困りますよ、英雄将軍殿ぅふふぁふぁひひ」


という影の笑い声に、バルザムは半狂乱に恐れおののいた。


「英雄将軍殿、あなたは明後日、めでたく死にます」


「だ、だ」


 バルザムは必死で「黙れ」と叫ぼうとした。

しかし喉は焼け付き、ひゅうひゅうと鳴るだけだった。


 影から突如、紫色の巨大な老人の顔が突き出てくる。

歯はなく、しわだらけで、しかし強烈な悪意がほとばしる顔だった。


「貴様は悔しかろう。

 シ・ルシオンとかいう化け物に、貴様の栄光はズタズタにされた。

 ドバイルという小僧にも多少やられたが、まだまともな戦になっただけに、言い訳も立つ。

 しかし、勝ち戦をあの化け物にひっくり返され、何度も大恥をかいた。

 死ぬ間際にも、最高の手駒を擁してもだ。

 奴の前では、英雄将軍どころか、愚鈍な将軍に過ぎなかった。

 そうじゃろう?」


 バルザムは心臓をえぐられた気がした。

わなわなと震え、叫ぼうとしてもそれさえできず、やがてはらはらと涙をこぼした。


「しかしこの老いぼれの寝たきりでは、復讐も叶わぬ夢。

 このまま屈辱にまみれて死ぬ。

 何と哀れな英雄将軍であることかぁひゃひゃひひ」


 紫の顔が残忍な哄笑で歪む。

無力なバルザムは、気も狂わんばかりに怒り、嗚咽した。


 突如その目の前に、紅くぎらぎらと渦巻く宝玉が出現した。

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