杖 1
「まさかわしの魔馬車が、あの憎々しい魔封じめと手を組むことになろうとは」
蝋燭二本だけの暗く狭い、実に雑然とした窓のない部屋に、マイクラ・シテアはいた。
彼は机の傍らに立て掛けてある杖に語りかけていた。
「魔封じとは何者ですか」
「わしの邪魔ばかりする、筋肉馬鹿だ。
シ・ルシオンとかいうらしい」
「それなら私も知っています。
私より上の世代の軍人なら、誰でもその名は知っています」
杖がそう応えると、マイクラ・シテアは喉の奥をガラガラいわせた。
苛々している。
「ドバイルよ、貴様は大陸随一とも言われた調略家であろう。
あの忌々しい連中を始末せよ」
杖には、ザーグ砦の守将ドバイルの魂が宿っていた。
ぎらつく紅い宝玉が埋め込んである。
杖はしばらく考え、やがて応えた。
「如何なる英雄であろうとも、いや、優れた人間であればその分、嫉妬もされましょうし、恨まれもします。
今のような戦時であれば尚更です。
戦時の英雄とは、より多くの人を殺す者に他なりません」
「ほう」
引きちぎれそうなしわがれ声で相槌を打ち、魔導師は興味を示した。
「で、それでどうなる」
「彼らを恨んでいる者たちを探しましょう。
その死を待ち、私と同じく宝玉にて魂を採取し、そして、強力ながら愚かな魔物に埋め込みます」
「おもしろい」
マイクラ・シテアは歯のない紫色の口を引き裂いて、にたりと笑った。
喉の奥で苦しげな呼吸音がする。
「早速色々調べてみよう」
魔導師は杖をひっつかむ。
彼の側に紫色に揺らめく裂け目が現れ、彼はその中に吸い込まれた。