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魔帝  作者: 松本 力
神託
112/192

神託 9

 オデュセウスの厩舎は、新築の煉瓦作りである。

主に合わせて大きいが、実に質素である。

もう少し色々提案したが、オデュセウスは、


「私はこんな姿で、腹が減るわけでもなく、今更贅沢したいとも思いませんので、雨露さえ凌げれば。

 本当はそれも必要ないのですが、あまり目立ちたくもありませんので、姿を見せずにすむなら幸いです」


と言って、今の建物になった。


 玄関は巨大で頑丈な鉄の両開き扉である。

錠は特にかかっていない。

目線ぐらいの高さに取っ手があり、それを引くが随分重い。


「ちぇっ、今度から戦士殿を連れてこよう」


 なかなか動かなかったが、やがて重々しい軋みを上げながら、扉は開いた。


 中は、がらんとして何もない。

明かり取りの窓から差す陽光で、思ったより明るい。

その中央に、漆黒の馬はたたずんでいた。


「知らせを持ってきた。

 ホルツザムとバルダが、休戦協定を結んだよ」


 ローブがそう言うと、かすかに巨馬は動いた。


「良かった」


 意外な応えだった。


「ホルツザムがもっと勝ってほしくなかったのかい」


「戦争など、ない方がいい」


 さらに意外だった。


「あんたは大陸にその人ありという英雄だったけど」


「人殺しに過ぎません。

 私は兵士であり、それが仕事、気障に言うなら使命だったから、全力で働いた。

 勝利や賞賛は、嬉しかった。

 戦場は興奮もする。

 だが、人の肉や骨を斬るときのあの感触と、その向こうにいる家族を、落ち着いたときに考えると、私はつくづく、人殺しだと痛感するのです。

 しかし私には、兵士以外の生き方ができなかった」


 ローブはふと、シ・ルシオンの顔を思い出した。

あの巨人も、同じ様に戦場でしか生きられない。

価値観にも似たところがあるように感じた。

違うのは、非情に徹しきれるかどうかだった。


「そうか」


 戦場を知らないローブには、どう応えればいいか判らなかった。

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