神託 8
「どういうからくりかは俺にはわからんが、ともに戦おう」
昼下がりの祝典は、長々と夕方まで続いた。
一仕事終えたローブは、休むことなく次の仕事に取りかかる。
祝典が終わった夜には密使を各国に送り、有事の際の各国の連携について、最初の公式な打診を行った。
手配の実務は、先日ザーグ砦から連れてきたフォルタが行った。
「もうできたか、早いな。
ちなみにお偉方の反応はどうだった?」
「概ね好評でした。
やはり最近のマイクラ・シテアの活動に強い懸念をお持ちのようですね。
神託の馬車殿も、それを後押ししたように思います」
「どうだかなぁ。
どうせお前がそう言ったから、うんうん言ってただけだろうよ」
慇懃なフォルタは、教皇庁の幹部連中の評判がいい。
未だに評判が悪いはみ出し者のローブと、よく比較される。
ローブはそれを利用して、フォルタに事務的なご用係を任せている。
フォルタは有能で、しかもただの「いい人」ではない。
ローブが誰をどの様に利用したいか、どんな駆け引きをしたいのか、ほぼ理解した上で、いい人を演じている。
若いが最高の片腕だった。
「あなたはドバイル様より、ずっと悪い」
というのが、フォルタの最近の口癖である。
もう一つ口癖がある。
「マルタがいてくれたらなぁ」
大抵小さな独り言だが、それが聞こえると、ローブは少し申し訳なく思う。
フォルタとマルタは、ともに認め合うパートナーであり、友人だった。
結果的にローブが引き離したのである。
「可能なら、いつかもう一度、引き合わせてやりたいな」
と思うが、今の各地の戦乱やマイクラ・シテアの脅威を考えると、自信はなかった。
数ヶ月後、ザーグ砦やホルツザム、バルダなどに忍ばせてある間者から次々に知らせが届いた。
「ホルツザムとバルダ、休戦協定成立」
「ザーグ砦はホルツザムが領有」
ローブは胸をなで下ろした。
とりあえず当初のもくろみ通りに事は運んでいる。
フォルタも喜んだ。
だが、その知らせをオデュセウスに持って行くのは、勇気が必要だった。
オデュセウスに与えられた郊外の専用施設、厩舎とでも言えそうな所に、ローブは重い気分で出掛ける。
街道に面した小さな農場の片隅に、それはできている。