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魔帝  作者: 松本 力
神託
110/192

神託 7

 ローブは手を弛めない。


「信じられないかも知れない。

 だが、俺やシ・ルシオンがあんたの前に現れ、こんな話をしている。

 あんたの額にある紅い魔の宝玉、そしてあんたの存在。

 全てが、俺達の理解できない、巨大な運命その物じゃないか」


 そこでローブは一呼吸置く。


「あんたはいつだって、どんな厳しい戦場でも、一番槍を付けていた。

 その勇気が、みんなを救う」


 ローブは巨馬に笑いかけた。


「頼むよ」


 根っから誠実でまじめなオデュセウスは、もはや応じるしかなかった。


 オデュセウスは二日後、「神託」という名目で教皇庁に迎え入れられた。


 よく晴れた秋空の正午、教皇庁の前には群衆がうねる。

しかし戦士を乗せた漆黒の馬車が現れると、群衆は教皇庁の正門に向かって鮮やかに割け、王道を描いた。


 そして喝采が吹き荒れる。


 不思議な感覚だった。


 漆黒に煌めく馬車にはシ・ルシオンが乗り、共に威風堂々たる姿である。

馬蹄の石畳を踏みしめる音が、あるいは車輪のきしみが、栄光の伴奏に聞こえる。

トルキスタの「神託」とは、長引く戦乱や貧困などで荒廃した人々の心に現れた、希望そのものであったのだ。


 演出を手がけたローブだけがただ一人、その様子を若干の安堵と共に、冷静に見守っていた。


 教皇ベルセスが、教皇庁正面大門の門前にて馬車を迎えた。

齢八十あまりの老齢で、滅多に姿を見せないが、「神託」の威力は大きく、庁舎の奥から老人を引きずり出した。


 一万を越える聴衆が見守る中、老人はかすれたか細い声で勅語を述べた。


「偉大なる戦士ドルアーノが、伝説の姿そのままに、今甦った。

 これは未来への希望を告げる鐘である」


 沸き上がる群衆にはその声は届かない。

しかしその勅語は記録され、直ちに書き写しに回された。

夕刻には、教皇庁を始め周辺の居住者に広く行き渡る手筈であった。


 続いて最近トルキスタ聖騎士団長に就任したロドが現れる。

馬車に近づき、声をかけた。


「貴殿はまことに、ホルツザムのオデュセウス殿であろうか」


 ローブから話を聞いてはいたが、目の前にいる鋼の巨馬を見て、現実主義的な軍人にはそれを容易には信じられなかった。

だが、


「はい、そうです」


という素朴な応えに、妙に納得してしまった。

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