魔馬車 11
オデュセウスは自分が開けた大穴から逃れようとした。
が、馬体の後ろにつながれた何かが引っ掛かった。
見ればそれは、やはり鋼の、巨人でも乗れそうなほど巨大な、戦場の馬車だった。
巨大な車輪が二つあり、これを引いてオデュセウスが軍勢を突っ切れば、どれだけの屍体が作られるかわからない。
建物が激しい音を立てる。オデュセウスは夢中で引いた。
すると壁はより大きく破れた。
間一髪オデュセウスは逃れた。
オデュセウスが離れるとたちまち建物は地響きと共に崩れ去った。
周りは、渓谷にある忘れ去られた、ささやかな遺跡群だった。
黄昏時で、物哀しい場所だった。
今崩れた少し大きな石造の建物を中心にして、その周りを小さな五つの建物が囲んでいる。
なにか宗教じみた場所だが、ここがどこか、オデュセウスには見当もつかなかった。
改めて自分の身体を見回してみる。
黒塗りの鋼鉄でできている。
鍛え上げた戦場の馬に思えた。
戦車は武骨で、重々しい。
オデュセウスは途方に暮れた。
「どうする、こんな身体で」
色々考えを巡らせてみたが、答えの出るはずもない。
「あの時死んだはずが、何故こんなことになったのだ」
オデュセウスはしばらくたたずんでいたが、無駄だった。
やがて彼は、考えるのをやめた。
周りは人里離れ忘れられた遺跡群。
ここで朽ち果てるのを待つことに決めた。