神託 6
郊外であり、人はあまりいない場所だが、それでも人は何人か集まっていた。
ローブは馬車を停めると、声をかけた。
「悪い悪い、どいてくれ」
ローブの法衣を見ると、人々は少し遠慮して、鉄の黒馬から少し離れ、遠巻きに様子を見る。
ローブは、鋼の黒馬を見上げ、
「俺はローブ。
オデュセウス、あんたの力を借りたい」
と声を張り上げた。
それまで黒い空洞だったオデュセウスの目が、赤く光った。
彫像のようにじっとしていた馬車が、首をローブに向ける。
様子を見ていた数人が悲鳴を上げる。
「ああ、騒がなくていい、この一件は既にトルキスタ教皇庁の管理下にある」
ローブは特にうろたえた様子もなく、むしろ穏やかに制した。
優しげに笑う彼を見て、集まった人々は安堵の顔になった。
「あぶねぇ、騒がれたら面倒だ」
ローブは巨馬に向き直りながら、小さく呟いた。
「私はオデュセウス。
トルキスタ教皇庁のローブ、あなたの名は、知っている」
ローブの脳に直接声が響く。
多少の違和感はあるが、引き締まった男性らしい声で、嫌ではなかった。
「私は、シ・ルシオンにザーグ砦で斬られ、マイクラ・シテアという男のあやかしでこんな馬の姿になった。
そしてシ・ルシオンが私をここへいざなった。
これは、誰によって仕組まれた事なのだろう」
「さぁ」
黒馬の問い掛けに、ローブは肩をすくめた。
「俺にもわからない」
「そうか」
黒馬は、わずかにため息をついた。
ローブは、オデュセウスに近寄り、芸術的に逞しく作り上げられた金属の馬体に触れた。
「そんなことより、俺には、あるいはシ・ルシオンには、あんたが必要だ。
話せば長い。
だが簡単に言えば、俺達はあの魔導師マイクラ・シテアを滅ぼさなければいけない。
大賢者ソルドの遺言が、それを示している」
オデュセウスは、何も応えない。
戸惑っているらしい。