神託 5
トルキスタ教皇庁近くに魔馬車が現れたのは、翌日昼過ぎのことだった。
早馬でも五日かかるぐらいだろうか。
驚異的な速さと言えた。
速いということは当然御者にもかなりの負担がかかるはずだが、シ・ルシオンは何ら疲れた様子がなかった。
教皇庁に近づくと騒ぎになると思われたため、シ・ルシオンはオデュセウスを残して教皇庁へ一人向かった。
地下に下り、ローブを迎えにいく。
ローブは執務をこなしていたが、シ・ルシオンが現れると、華やかに笑った。
「首尾は?」
「連れてきた」
「行こう」
ローブはすぐ立ち上がり、秋物の洒落た白い上着をまとった。
野蛮な毛皮一枚のシ・ルシオンとは対照的だった。
郊外まで二人は馬車を出した。
「馬車に乗って馬車のところへ行くっていうのは、ちょっと変わってるね」
ローブはそんな軽口を言う。
例によってローブが御者で、シ・ルシオンが馬車に乗っている。
「ドルアーノの馬車の乗り心地は、どんなだった?」
シ・ルシオンは黙ったままだ。
ローブは気にもかけずに一人で喋っている。
「乗ってみたい気はするが、想像するとたぶん、大変そうだ。
荒っぽいのはあんたに任せるよ。
俺はお上品なんだ」
そうこうするうち、街道から少しはずれた場所に巨大な馬車がたたずんでいるのが見え始めた。
じっと止まっているので、オブジェのように見える。
特別目立つような場所にいるわけでもないが、随分目立った。
ローブは美しいと感じた。