神託 4
「すぐにとは言わん。
また来る」
沈黙するオデュセウスの様子を見ていたシ・ルシオンが、やがて言った。
そしてあとは何も言わず、馬車に背を向けた。
それから数日間、オデュセウスは悩んだ。
考えたと言うよりは、悩んでいた。
仲間への裏切り、得体の知れぬ敵との戦い、そして自分の呪われた運命。
整理がなかなかつかない。
思えば彼には、何かを相談できる相手がいなかった。
何かを共有できる相手もいない。
突撃隊の仲間たちとも、どこか一線、距離があった。
最後はいつも一人で戦場を切り抜けていた。
一人で生きているわけではないと思っていたが、しかし常にどこか、孤独だった。
「あれほどの戦士が、なぜ俺に」
ふとそう思う。
先程の戦いで、確かに自分は、相当な速さで動けることがわかった。
マイクラ・シテアの言う「二日で大陸を横断」というのも、そう大きな間違いではないかも知れない。
あの魔導師を追うために自分が必要なら、応えてやっても良いかも知れない。
だがなぜあの戦士は、魔導師を追うのか。
実は自らの死は、何か巨大な力によって仕組まれたのではなかろうか。
そこに、答えはない。
だからこそオデュセウスは、運命的な何かを感じた。
「俺は、どうせ死んだのだ」
彼は自嘲した。
数日後の早朝、わずかにもやが漂う荒野の果てから、褐色の戦士がやってきた。
特に構えをとらないその姿は隙だらけのようにも見えるが、しかし全く隙がないことを知った。
同じ戦場で生きてきた人間として、それは羨ましいぐらいだった。
シ・ルシオンは、黒い巨馬を少し見上げるぐらいの場所で足を止めた。
オデュセウスが踏み込んでも、辛うじて交わせそうな位置だ。
「答えは出たか」
戦士はぶっきらぼうに尋ねる。
「微力を尽くそう」
オデュセウスは穏やかに応えた。