神託 3
オデュセウス自身も、そういう悲劇を限りなく作ってきた。
それは判っている。
わかっていてもなお、この戦士ほど無慈悲にはなりきれなかった。
「あぁ、酷い」
オデュセウスは絞り出すように言った。
もはやこの戦士と戦う気も失せ、ゆっくりと向きを変え、元いた廃墟のそばへ戻ろうとした。
「俺はお前を迎えに来た」
ずしりと響く声が、オデュセウスを呼び止めた。
「マイクラ・シテアという魔導師を討つために、お前が必要だ」
オデュセウスは、足を止めた。
「何?」
金属のきしみを響かせながら、オデュセウスは振り返った。
眼孔が赤く燃える。
「どういうことだ」
「俺はマイクラ・シテアを追っている。
奴はすぐに魔導とやらで行方を眩ます。
奴を追うためには、お前を斬り、馬車となったお前を迎えよと、ある女から教えられた」
「そんな馬鹿なことが」
といいかけて、オデュセウスは言葉を止めた。
シ・ルシオンの言っていることは普通に考えれば余りに荒唐無稽だ。
が、今彼自身が、その荒唐無稽な状況の中心にいて、現にシ・ルシオンに斬られ、馬車になり、再びシ・ルシオンが迎えに来た。
まるで仕組まれた様だ。
だがこの茶番を誰が仕組んだかはわからない。
マイクラ・シテアにしてもシ・ルシオンにしても、彼ら自身が手のひらで扱える問題とは思えない。
なぜなら自分がマイクラ・シテアに作られたのでありながら、実際にやってきたのはその敵であるらしいシ・ルシオンだった。
「マイクラ・シテアは、何者なんだ」
オデュセウスは尋ねた。
「魔導師だ。
例のバザの惨劇を一人で起こした男だ」
オデュセウスは、バザの惨劇について、多少聞いたことはあった。
魔導師狩りと、その後に起こったトルキスタ聖騎士団の虐殺劇である。
数千人が一夜で殺されたと聞く。
それを引き起こしたのがマイクラ・シテアだというのか。
オデュセウスは凶悪で陰惨で不吉な魔導師を思い出した。
自分を斬り、彼の仲間たちを斬った男を仇討つよりも、その魔導師を討つことの方が、実は価値あることなのではないか。
だが彼は、合理性だけで判断できるほど、冷徹ではなかった。
同じ様に戦場で生きてきた二人だが、この点は決定的に違った。