表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔帝  作者: 松本 力
神託
106/192

神託 3

 オデュセウス自身も、そういう悲劇を限りなく作ってきた。

それは判っている。

わかっていてもなお、この戦士ほど無慈悲にはなりきれなかった。


「あぁ、酷い」


 オデュセウスは絞り出すように言った。

もはやこの戦士と戦う気も失せ、ゆっくりと向きを変え、元いた廃墟のそばへ戻ろうとした。


「俺はお前を迎えに来た」


 ずしりと響く声が、オデュセウスを呼び止めた。


「マイクラ・シテアという魔導師を討つために、お前が必要だ」


 オデュセウスは、足を止めた。


「何?」


 金属のきしみを響かせながら、オデュセウスは振り返った。

眼孔が赤く燃える。


「どういうことだ」


「俺はマイクラ・シテアを追っている。

 奴はすぐに魔導とやらで行方を眩ます。

 奴を追うためには、お前を斬り、馬車となったお前を迎えよと、ある女から教えられた」


「そんな馬鹿なことが」


といいかけて、オデュセウスは言葉を止めた。


 シ・ルシオンの言っていることは普通に考えれば余りに荒唐無稽だ。

が、今彼自身が、その荒唐無稽な状況の中心にいて、現にシ・ルシオンに斬られ、馬車になり、再びシ・ルシオンが迎えに来た。

まるで仕組まれた様だ。


 だがこの茶番を誰が仕組んだかはわからない。

マイクラ・シテアにしてもシ・ルシオンにしても、彼ら自身が手のひらで扱える問題とは思えない。

なぜなら自分がマイクラ・シテアに作られたのでありながら、実際にやってきたのはその敵であるらしいシ・ルシオンだった。


「マイクラ・シテアは、何者なんだ」


 オデュセウスは尋ねた。


「魔導師だ。

 例のバザの惨劇を一人で起こした男だ」


 オデュセウスは、バザの惨劇について、多少聞いたことはあった。

魔導師狩りと、その後に起こったトルキスタ聖騎士団の虐殺劇である。

数千人が一夜で殺されたと聞く。


 それを引き起こしたのがマイクラ・シテアだというのか。


 オデュセウスは凶悪で陰惨で不吉な魔導師を思い出した。

自分を斬り、彼の仲間たちを斬った男を仇討つよりも、その魔導師を討つことの方が、実は価値あることなのではないか。


 だが彼は、合理性だけで判断できるほど、冷徹ではなかった。

同じ様に戦場で生きてきた二人だが、この点は決定的に違った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ