ザーグ砦攻防 16
オデュセウスの心臓を狙ったが、すんでのところでかわされ、右腕だけを捕らえ、斬り飛ばした。
後ろの六人は串刺しになった。
右足で踏ん張り、串刺しのまま右に剣を振る。
剣は串刺しの六人を引き裂き、続けて別な七人をまた真っ二つにした。
「よく交わした、オデュセウスよ。俺はおまえを捜しに来た」
今度は剣が左に返り、別な十人を刈り取る。
また四人が、また八人が。
そして瀕死のオデュセウスだけが残った。
絶望した、しかしそれでもなお強い眼差しを向ける黒装束の騎士の前に、シ・ルシオンは再び立つ。
「いずれ逢おう」
シ・ルシオンは刹那の迷いもなく、勇敢な黒騎士の首をはねた。
頭部が毬のように跳ねて転がった。
血の噴水が立ち上がり、胴体がごとりと床に転がった。
シ・ルシオンは手近な兵士の亡骸に近寄り、鎧の下の服を引き剥がし、それで剣を拭いた。
あらかた拭き終わると、剣を鞘にしまう。
そして、百人近い死体の山には目もくれず、上の階へ立ち去った。
彼は五階の司令室の前を横切り、展望台への階段を上った。
展望台といっても、塔の上が陸屋根になっているだけである。
塔からは、砦の敷地内の様子が一望できる。
腰より下ぐらいの低い塀があり、彼はそこに右足を乗せて、眼下を見下ろした。
折しもその時、城門を抜けて砦に入ってきた、派手な戦装束の大柄な老人がいた。
将軍バルザムだった。
歴戦の名将は、異様な気配を即座に感じた。
あちらこちらで勝ちどきの声が挙がっているのに、肝心の司令塔がまだ落とせていない。
その疑問に駆られて彼は、不安げに塔を見上げた。
彼は短い悲鳴を上げた。
塔の頂から見下ろす、褐色の巨人がいる。
真っ白なたてがみと、巨大な剣。
彼の汚れるべからざる栄光を幾度となく踏みにじってきた、恐怖の権化がそこにいる。
「あ、あ、て、てて停戦だ、全軍、バルダ側に停戦を呼び掛けよ!」
彼は金切り声で絶叫した。
「停戦するのだ!」
「将軍、お気を確かに。
まもなく司令塔も我が方の手に」