ザーグ砦攻防 15
低いが殷々と響く声が、彼らを捕らえる。
兵士たちは慌てて首を左右に振る。
「そうか。
まあいい」
次の刹那、シ・ルシオンは恐るべき速さで踏み込み、一振りで前の方にいた八人を凪払った。
その事に他の兵士が気付いた時には、次の一振りが襲い掛かる。
胸から下だけで立っている者や、壁に上半身だけが打ち付けられる者、頭蓋が一瞬で砕け散る者もいた。
全員鋼の胴鎧を身につけていたが、全く意味がない。
せいぜい一呼吸半の後には、一組目の兵団は全滅した。
シ・ルシオンは息一つ乱れていない。
返り血も浴びていない。
まるでなにごともなかったようだ。
巨大な剣をびしりと振って血を払った。
血糊はまだ随分残っていたがそのままにして、剣を再び床に突き立てた。
数十分、塔の周りでなにがしかの気配はあったが、駆け込んでくる様子はなかった。
しかしやがて、異変を察知した一団が、機敏な動きで塔に突入してきたのがわかった。
「来たか」
先ほどの一隊とはまるで違う、厳しく鍛え上げられた隊である。
その数は五十といったところか。
素早い動きで駆け上がってくる。
二階、三階。
そして、シ・ルシオンの見据えるその先に、類い希なる勇敢な、そして屈強な騎士の姿が、精鋭数十を率いて現れた。
「名は?」
わずかな高ぶりを抑えつつ、シ・ルシオンは低く野太い声で呼ばわった。
先頭に立つ黒ずくめの騎士は、既に死を覚悟した顔だった。
それでも一歩も退かない、強靭な魂を持っていることがわかった。
「オデュセウス。
我らはホルツザムの先鋒隊だ」
「俺はシ・ルシオン」
シ・ルシオンはそう言って、突き立てていた巨大な剣を下段に構え直し、そのまま山積みになった死体を跨いだ。
数十名の騎士たちが、恐怖におののき、オデュセウス以外の全員が後ずさる。
その時、一人の若い騎士が、狂ったように叫びながら躍り掛かってきた。
だが、シ・ルシオンは、かすかな逡巡すらなく、右手だけで剣を横に薙いだ。
若い騎士は枯れ枝のように吹っ飛び、廊下の壁に打ち付けられる。
若い騎士は既に胴が真っ二つに斬られていた。
オデュセウスの目線がそちらに一瞬動く。
同時にその向こうに六人が重なって並んでいる。
シ・ルシオンは剣を両手で持ち、野獣のような鋭さで平突きした。