魔馬車 10
まず、巨大だった。
そして、黒塗りの鋼に覆われている。
いや、身体が鋼でできている。
それが自分の意思で軽々と動く。
そして、勇猛な馬の形をしているのがわかった。
「美しいじゃろう。
馬の筋肉一つ一つ、骨格など、忠実に再現してある。
しかも装甲は人の胸板より分厚いし、魔界の恐ろしく強靱な金属でできていて、さらに魔導で強化してある。
弓矢はもちろん、魔封じめの剣も受けつけまい。
お前さんにわかるかのぅこの作品の良さが」
オデュセウスは独り熱心に語っている影を、巨大な馬蹄で踏みつぶそうとした。
ホールの床に巨大な馬蹄型の穴があいた。
しかし影はもう別の場所に動いていた。
「そうそう、そうやって全てを踏みつぶすが良い。
破壊こそが美しいぃひひひゃはは」
オデュセウスは吠えた。
すると口から燃盛る火焔が槍の様に吹き出た。
炎は影のいた場所を焼き払ったが、また影は別の場所に逃れている。
「怒れ、怒れ魔馬車オデュセウス!」
「貴様は何者だ!」
再び咆哮し、影目掛けて突進する。
しかし影は嘲笑う様に逃れる。
オデュセウスの巨大な鋼の身体が壁に激突すると、石組みの分厚い壁はガラガラと破れた。
「わしはマイクラ・シテア。
趣味は殺戮です。
よろしくぅひゃひゃひゃ」
ホール全体がきしみ始めた。
オデュセウスが壁を破壊したため、崩ようとしている。
「それではごきげんよう」
オデュセウスの背後の空間に、ぎらつく紫の亀裂が現れた。
影、マイクラ・シテアは、その中にするりと吸い込まれる。
亀裂は瞬時に消えた。
後には崩れゆく建物だけが残った。
「いかん」