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魔帝  作者: 松本 力
魔馬車
1/192

魔馬車 1

 真夏の熱風が、彼方まで広がる草原を駆け抜けた。

 眼下は、さながら緑の海であった。


 オデュセウスのまとう黒塗りの鎧は、南中の日差しを受けて焼けていた。

短く刈った黒髪も、日に焼けた凛々しい顔も、無論鎧の下も、汗でひどく濡れていた。

跨がる栗毛の馬も、そのたくましい体を汗に光らせていた。


 目線を少し上に向けると、盆地の向こうの丘陵に、敵バルダ軍およそ五千が整然と布陣している。


 対する自軍ホルツザム勢はおよそ八千。

オデュセウスはその先鋒突撃騎兵隊五十を率いる隊長だった。


「負ける戦ではない」


と思ってはいた。

しかし彼は油断していない。

如何に犠牲を少く勝てるか。

多くの修羅場をくぐってきた経験から、彼はそう考えていた。


 彼は後に控える部下達に馬を向けた。


「間も無く突撃開始だ。

 今日も我々は誉れ高き先鋒を任されている。

 銘々は修羅となり、期待に見事こたえてみせよ。

 また、一番槍の栄光はそれぞれ狙うがよい。

 私も狙う。

 横取りできるものならしてみるがよい。

 よいな!」


 オデュセウスの叱咤に、隊員たちは短く鋭い返事でおうと応えた。


 やがて陽気なラッパの音が一帯に響いた。

「突撃!」


 オデュセウスの怒号を皮きりに、彼の隊は稲妻の様に丘を駆け下った。


 盆地の向こうの丘陵を、バルダ軍も下り始めた。

すり鉢状の盆地は思ったより広く、互いになかなか近付かない気がする。

馬上の風が、幾分か汗を忘れさせた。

使い慣れた長槍が、今日は少し軽く感じられた。


 気付けば敵の騎兵が、顔のわかる距離まで来ていた。


「続け!」


 雷鳴の様に叫ぶ。

敵が、あるいは敵の馬が、一瞬ひるむ。

そこへ目掛けて槍を繰出せば、もう敵兵一人を殺していた。

血の噴水を尻目に、オデュセウスは突き進む。

彼の隊員一人一人がそれぞれ同じ光景を作る。

敵の隊列は鮮やかに裂け、指揮が破綻し始めた。


 やがてオデュセウス隊の後方で、再び陽気なラッパが吹き鳴された。

本隊が進む合図だ。

オデュセウス隊は直ちに旋回し、右に逃れた。

そこへ本隊が槍襖を揃えて押し寄せる。

いつもの常勝戦法だ。


 役目を終えたオデュセウス隊は速やかに引き揚げる。

その間にこの戦場での大勢は決した。


「よくやった! 今宵は祝宴にしよう」

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