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恋の風に吹かれて(恋愛掌編集)

待ち人来たりて、甘い夜に

作者: モンブラン

バレンタインデーに絡めて、30分の即興で書いてみました。

 吐く息は白く、小さな靄はすぐに消えてしまいます。手袋をして来たほうが良かったのかもしれません。寒空の下にずっと居たせいでしょうか、すっかり手が冷たくなってしまいました。彼の温かい手が待ち遠しいです。

 彼との待ち合わせは、デパートの前で夜の七時に、と約束しています。腕時計で時間を見ると、七時をもう二十分ほど過ぎています。彼は遅刻です。七時を回る前に連絡が来たんです。前の用事が長引いてしまって三十分ほど遅れるから先に中に入っていてくれ、と。

 だから、敢えて外で待つことにしたんです。私が外で待っている姿を見たら、彼は一体どんな反応をするでしょう? 申し訳なく思うでしょうか? ちょっとだけ意地悪ですね。

 しかし、寒いです。周りのビルや照明の明かりは、太陽の光と違って私を暖めてくれません。悪戯心を働かせるよりも、暖をとった方が良かったのでしょうか。いえ、中途半端はいけません。初志貫徹、です。彼の連絡通りならば、もう少しで彼は来てくれるはずですし。

 そうだ、楽しいことを考えましょう。

 私はお酒を飲むことが好きです。元々はあまり関心がなかったのですが、彼からいっぱい美味しいお酒を教えてもらったおかげで、すっかりハマってしまいました。それに、どうやら私はお酒に強いらしいのです。一緒に飲んでいる彼の顔がだんだん赤くなっていき機嫌が良くなっていくのに、同じ量を飲む私の調子は少しも変わりません。ちょっとフワフワするくらいですが、おつまみをいただいているとすぐに覚めてしまうんです。彼ばかり気持ち良さそうに飲むので、羨ましくなってしまいます。……少しだけ寂しくもあります。でも、良いんです。お酒は美味しいし、美味しそうに飲む彼の姿を見るのもやっぱり好きですから。

 ふふっ。楽しいことを考えようとすると、やっぱり彼のことも思い出してしまいます。会えない時間は寂しいですが、思い出だけでも温かな気持ちにさせてくれます。ズルい人です。私の楽しかった思い出の全てに彼が居た訳ではありません。それでも、彼との時間は、どれも思い出し笑いをしてしまうくらいに楽しかったのです。

 かといって、思い出だけで温かな気持ちにはなっても、満たされることはないのです。早く会いたいです。早く来てください。

 すると、遠くからスーツ姿の彼がこちらに近づいて来るのが見えました。少し私の虫の居所が悪くなったのを見計らったかのようなタイミングです。やっぱりズルい人です。

 彼は息を切らせてこちらに走って来ます。私の前まで来てから膝に手を当てて息を整えます。じっと待ちましょう。

「遅れてすまない……。でも、どうして中で待っていなかったんだ? 寒いだろうに」

 彼は驚いたような声で私にそう言います。

「ふふっ、あなたが驚くかと思ったんです。結構待っていたんですよ、私」

「それは本当に悪かったよ。でも、待つなら中で待っていてくれ。風邪引くだろう」

「ふふふ、気をつけます。確かに、すっかり冷えてしまいました。だから、」

 私は彼の腕に自分の腕を絡めます。

「あなたが私を暖めてくださいね?」

 彼はそっぽを向いて、空いた方の手の指でぽりぽりと頬を搔きます。私はそれを彼が照れる時の癖だと知っています。可愛いですね。これだから、ちょっかいをかけたくなるんですよ。

 私の少し邪な笑みが横目で見えてしまったのでしょう、彼は「そろそろ中に入ろう」とデパートの方に少し早足で歩き始めました。腕を絡めたままの私も、そのペースに合わせるようにして歩きます。

「チョコレートは私が買いますが、私からもあなたにおねだりさせてください」

「おねだり? 何を?」

「チョコレートと一緒に飲みたいものがあるんです」

「飲みたいものっていうと、やっぱり……」

「はい。お・さ・け、です♪」

「……それ、俺の方が高くならないか?」

「高いチョコレートもあります。それに、大事なのは値段じゃなくて気持ちです」

 お買い物が終わったら、一緒にお家でチョコレートとチョコレートに合うお酒をいただきましょう。そのためにずっと、私は彼を待っていたのですから。

 待ち人来たりて、甘い夜になりますように。

きちんと休肝日を設けて、お酒は嗜む程度にしましょうね(笑)

ではでは、ハッピーバレンタイン!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなに風情のあるお話を30分の即興で綴られたとは、いつものことながら驚いております。。 彼女さんが寒い中彼氏さんとの思い出にひたりながら健気に待つ姿がとても可愛らしく、そして走って待ち…
2020/09/19 19:20 退会済み
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