morning―9
ニュースによると、乗員乗客合わせて150人程を乗せた旅客機はサンフランシスコを飛び立った後、ホノルルへ向かう途中太平洋上空で消息を絶った。原因は未だ不明。ニュース映像の中では肥満気味の航空専門家が声高に説明していた。
旅客機は人工知能が搭載されたことにより、航空機の状態管理が著しく改善され、それに伴い航空事故の割合は大きく減少した。さらに人工知能には、緊急時には今後のためにフライトデータを転送するようプログラムされているようだが、何故か今回は機能しなかった。
「理由は二つほど考えられます」航空専門家は自分の胸元でピースサインを決めるかのように指を二本立てた。
「搭載された人工知能に何らかの不具合があったか、あるいはパイロットが人工知能の介入をシャットアウトしたかです」
「さすがにシャットアウトはないんじゃないですか」司会者が半笑いでそう返すと、不謹慎だ、それではまた炎上しますよ、その言いぐさもまた不謹慎だ、そもそも人工知能を信用しすぎではないか、などと話が逸れ始めたので、ニュース映像を停止した。
「飛行機は失踪したままなんだ?」わたしは疑問を頭の中で呟いた。
「はい。失踪場所はおおよそ見当がついているようですが、未だに機体の発見には至っていないようです」アルの返事が返ってくる。
「じゃあ・・・何でわたしここにいるの?」さらに疑問を返す。
機体が見つかっていないということは、つまりわたしの亡骸も見つかってないはずで、にもかかわらずわたしは保険対象者として個人の再生をされてしまっている。どういうことだろう。わたしはまだ死んでいるのかも分からないのだから、この判断は些か早計なのではないだろうか。まぁ、一月近くも見つかっていないのだから、ほぼ間違いなく生きてはいないのだろうけれど。
「今回のような、生存が絶望的なケースの場合、契約している保険の内容によっては、失踪後一定期間が経つと保険の対象者となることがあるようです」アルは端的に答えを示した。
「なるほど・・・まあ、そーだよね」
過去にも悲惨な事故、災害によって、行方不明となったまま、生死の判断もつかない状況はごまんとあっただろう。そういったケースにも対応できるような保険に、わたしは幸運にも入っていた、ということか。不幸中の幸いとはこのことである。
「じゃあ、わたしみたいに保険の対象者になった人は他にもいるかも、なんだ」
「可能性は大いにあると思います」
それでも、失踪した人達が全員そういった保険に加入しているわけではないだろうから、早く見つかってほしいな、と思ったところで気づいた。
「・・・わたし、何で飛行機なんか乗ったんだろう?」
「そういう予定だったのではないのですか?」
何故気づかなかったのだ。あの日は休み。休日は楓と連絡を取ってショッピング行くとか、バーでカクテルを楽しむとかするだけで、ただの二連休に発作的に旅行に出掛けるなんてしたこともない。そんな私が何故ハワイを目指して飛び立つ飛行機に搭乗していたのだろうか。
あの日の自分の行動が分からない。わたしにはその時の記憶が残っていないのだ。