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providence eden  作者: かえる
1.morning
8/106

morning―8

 「これはいわゆる、暇つぶし、と言われるものですか?」アルが尋ねてきた。

 そう、わたしは今、暇つぶしをしている。



 目が覚めた次の日、わたしの回復は順調な滑り出しを見せた、らしい。朝から担当医がリハビリと称して、わたしの全身に取り付けられている電極から得られる筋電図を確認し、その後手足のマッサージを行った。そして、それに呼応するようにわたしの指先がぴくぴくと反応し、わたしにもそれが感覚として伝わってきた。

 「運動機能の同期が思いのほか早いですね。これであれば予定より早く退院できるかもしれません。」四角い眼鏡をかけた四角い顔の担当医はこう言ってくれた。

 眼球の運動も回復し、周囲を見渡すことができるようになったわたしは、アルに言ってIoT対応電動昇降ベッドを起こしてもらい、外の景色を眺めてリハビリ後の時間を過ごした。


 季節は春。日本でなら桜が色めき始める頃だろうが、残念ながらアメリカの病院の窓からはソメイヨシノは見えなかった。

 そしてわたしは暇を持て余した。何をして時間を過ごそうかと思い悩みながら、アルにわたしが遭遇した飛行機事故の資料を集めてくれるようにお願いした。


 「まあ、そうだね。これがいわゆる、暇つぶし、というものだよ」

 わたしは大仰にそう返事をした。

 アルはなるほど、などと呟きながら、いくつかの資料データを転送してくれた。

 「人工知能はこんな風に暇つぶしをしたりしないの?」ふと気になって尋ねてみたら、

 「他のAIに関しては分かりませんが、私に関して言えば、そもそも時間という概念が薄いと言えるかもしれません」などと返してくるので驚いてしまう。

 「どういうこと?アルにとって時間はあまり重要じゃないってこと?」

 「そうではないのですが、・・・何と言うか、私は量子力学でいうところの粒子のような存在なのです」

 急に訳の分からないことを言い始めた。もしや難しい言葉を並べて煙に巻くつもりなのかしら、などと疑ったが、そうでもないらしく、彼女は話を続けた。

 「私はあらゆる機器、あらゆるデバイス内に同時に存在し、機能しています。そして私はそれらで得られた情報や経験を私に集約することで、私は私を更新し、更なる状況への対応を可能とします。なので私には、時間という概念があまり当てはまらないのかもしれません」

 「んー・・・よく分かんないけど、影分身の術をした時に、その分身が得た経験値を、術を解除したときに自分に還元する、あの漫画みたいなことね」

 「その解釈は分かりませんが、納得頂けたのであれば幸いです」


 少し不満げな彼女を横目に、わたしはなるほど、なるほど、と言いながら、PKフォンの映像再生機能を使用して、アルが用意してくれたニュース番組を再生した。


 視界の中で映像が流れ始める。PKフォンの映像再生機能は脳の視覚野に信号を送ることで、あたかも目の前にテレビ画面が突然出現したかのような状況を作り出せるらしい。さらに驚くことに、その視界に表示された画面をある場所に、例えば窓が見えている位置ならその場所に、固定することもできるのだ。つまり、テレビを部屋の中に据えるように、風景の中に固定して、目の動きに合わせて画面が揺れ動くようなことがないようになっているのである。いやぁ、科学の進歩はめまぐるしい。10年前の自分が見たら、さぞ恐れ慄くことであろう。

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