afternoon―7
「おはよう、コノア。アジア人は幼く見えるものだが、今日の君はほんの子供のようだね」
班長室の窓際の、自分の席の横で、映画のワンシーンのように珈琲を薫らせながら立っていた。
気障な言い回しや、気取った仕草を好んで使う我らがボス、実地調査班の班長、ミスター・クレイグ。
ただ残念なことに、どれだけ恰好をつけようとしてもつかない恰幅の持ち主でもある。今のわたしなら、あのお腹に五人はすっぽり入りそう。
「おはようございますボス。子どものよう、ではありません。これは七歳児の身体です」
久しぶりに聞くボスの口調に何だかしみじみとなる。
この会社に入社したときからわたしのボスであり続けているボスは、初めからこの口調だった。最初の頃こそ不思議な外国人─ここではわたしが外国人だけど─という印象で、わたし自身面白がっていた節もあったけど、ずっとこの調子で接されると流石に飽きてくる。最近ではもう、普通に聞き流すようになっていて、その話し方に意識を向けることもなかった。
それが一月程の入院、昏睡状態を含めればもっとだけど、たったそれだけ聞いていなかっただけでこんなに懐かしく感じられるとは、ちょっと感動してしまった。
ボスはわたしの、ただ事実を述べただけの返答に満足げに頷く。埋没した首の、垂れ下がりシャツの襟に乗っかっている二重顎が小刻みに揺れた。
「しかし君が事故に巻き込まれたと聞いたときは、心臓が止まるかと思ったさ。我が班を含め、会社の誰もが君のことを心配していたのだ。君は皆から愛されているからね。本当に無事でよかった」
ボスはきっと、心の底からわたしのことを心配してくれていたのだろうけど、その挙措のせいか過剰なリップサービスのように聞こえる。
「ありがとうございます、ボス。正確には無事ではありませんでしたが」
「ああそうだ。そうだとも。君の大切な身体が失われてしまったのだからね。しかし生命保険に入っていてよかった。さあ、よく私にその顔を見せておくれ」ボスは屈み込もうと身体を揺すった。
仕方なくわたしは進み出る。ボスは頑張ってわたしの視線に合わせようと身体を折り畳み、鏡餅のようになる。
「ああ、君を見ていると娘のことを思い出すよ。下の子がちょうど君ほどでね」
それは流石に引いた。ボスが父親とか本当にぞっとしない。
だからわたしは親の顔になりそうなボスを正面から見据えながら話を切り出した。
「ボス、ちょうど取り掛かりたい案件があるのですが」




