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providence eden  作者: かえる
1.morning
3/106

morning―3

 わたしは一度死んだ。それは有名人をテレビで見なくなったとか、スポーツ選手が致命的な怪我をしたときに使うような比喩ではなく、心肺が停止し、脳が活動を止める、あの“死んだ”のことだ。

 実感が湧かない。理屈は分かるのだけれど、理解が追い付かない。でも体は動かない。アルの言うこと以外に確認のしようがない。

 生命保険対象者。そういう風に言うのか。保険は掛けておいたけど、まさかこんなに早く使うことになるとは思ってもみなかった。



 生命保険の概念は2020年頃、先の世界大戦が収束したころから変わり始めた。その開始から核兵器が使用された大戦は、核が通常兵器のように使われた初めての事例となった。それにより、世界各地で黒い雨が降り、被爆地以外の国々でも原爆病の発症例が相次いだ。汚染された身体は既存治療だけではどうすることも出来ず、死者が続出したことにより世界人口は大幅に減少した。それに伴い大きく膨れ上がっていた世界経済は傾くことを余儀なくされ、発展途上国では経済破綻するところも多かった。その状況を打破するためには労働力の確保が重要視され、新技術の開発とその利用が急ピッチで進められた。そして出来上がったのがiPS細胞によるクローン技術と、脳とコンピュータを接続するBCI技術を組み合わせた、個人を保存する事実上の不死のシステム、ESである。本来であればこのようなシステムは国際社会の倫理意識によって排斥されてしまうはずであるが、経済的な緊急事態により、合理性が勝った形となったようだ。


 それ以前の生命保険はかけがえのない個人の生命に対し、それでも何とかそれに見合うだけの保険金を用意し、残された遺族へと補填されるものであった。しかし現在では保険の内容が全く違ったものとなっている。かけがえのない個人の生命に対し、その生命そのものを補償する、つまり保険加入者を蘇らせるものとなった。


 このシステムが普及したことにより、国際社会は労働力の減少を食い止めることに成功した。しかしそれより以前から発展していたAI技術の発展が労働力の不足をカバーする形となり、結果的に現在の保険制度は大義名分を失うこととなった。それでも倫理的な議論を十分に行うことなく世間一般に普及してしまったそれをおいそれと手放すこともできず、今日もずるずるとシステム運用が続いている。

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