morning―20
「でも凄い偶然だよね。同姓同名って」おばさんになった楓が、当時よりは幾分落ち着いた口調で言った。「親子とかだったりして」
「親子で同じ名前付けないでしょ」
「アメリカだと普通じゃない?カサイ・クニアキ・ジュニア」楓が長年住んでいるとは思えないカタトコの訛りで言う。
「ないよ。ジュニア付いてなかったし。それに親子にしては歳も離れてるよ」
CEOのカサイクニアキは七十七歳でこの世を去っていた。それが一月くらい前。生命保険に入れる年齢は過ぎていたのか、アルの言い種からして天寿を全うしたらしい。対してわたしの知っている葛西邦明はわたしのひとつ上。まだ三十代後半。単純計算だと四十の時の子ということになる。
「遅めに出来た子なのかもよ?四十でパパ。よくあるんじゃない?」
確かにあり得なくはない。
「そこら辺のこと、聞いてなかったの?」
「うん…。あんまり話したがらなかったし」
彼女だったのに、邦明の家族構成もあまり聞いたことがなかった。その程度の関係だったといえば、それまでなのかもしれない。
「まぁ…もう確認しようもないしね。…で、このおじいさんが作ったAIがこのあをこんなにした奴なんだ?」
不自然なくらいの勢いで楓が話題を戻す。その理由は分かるから、わたしもその流れに乗っかっていく。
「そうらしいよ。そして、そっちの奴と同型機らしい」わたしは楓の見ている資料の横にある新聞記事を強調するように信号を送る。
「何でこんなものがまだ使われてるんだか」楓が憎たらしげに顔を歪める。
「世の中理不尽なことばかりだからねぇ」わたしは達観したように言う。
「でその理不尽を、このあが解決するんだ」
「解決とか、そんなことは出来ないけどね」
その言葉がむず痒く、わたしは中途半端な返事をする。




