morning―17
「あいちゃん、いっちー!おっはよーっ!!」
背中から何かが衝突してきた。耳元で楓の「うっぐ」というえずき声がする。
またしてもわたしは踏ん張ろうと堪えたが、さすがに人間二人分の体重には堪えきれずに前から地面に、温められたアスファルトに突っ伏した。
「イッタいわ!何で飛び付いてくるんだよ!怪我したらどーすんのさ!」楓が声を荒げて抗議した。それをどうか、さっきの自分に言ってやってほしい。
「あれ、あいちゃん!今日私服!?」
天使のような声が溌剌と訊ねてくる。だからわたしは言い返す。
「アメリア、そっから見えんの!?楓でわたしのこと押し潰してるけど!?てか重いから!はやく、退いてよ!」
「重い!?私のどこが!?」楓がわあわあと喚く。
「あ、ごめんね。すぐ退くから」アメリアが申し訳なさそうにもぞもぞとした。すると早速、背中から押し潰してくる圧力が一人分軽くなる。
「ありがとう。いや、楓も退いてよ!」
無理矢理起き上がろうと四肢に力を込めた。すると右足首に激痛が走る。
「いたっ─」
「え、なにどうしたの?」
わたしの悲鳴に深刻味があったためか、楓が慌てた様子で立ち上がった。
「…足首痛い」痛みが起こらないようにと、身体をゆっくりと動かす。どうにか上体を起こして三角座りみたくなる。右手が自然と足首に伸びた。
「え、え、痛めたっ?わ、どだどどうしよう!ごめん!ごめんね!ごめんなさい!」
楓が半狂乱のようにパニックを起こした。その横で冷静なアメリアが静かに言う。「ほんとごめんなさい!怪我させちゃって…」
見上げると、長い金髪の中でお人形のような可愛らしい顔が泣き出しそうに眉を八の字にしていた。
「いっちー!保健室!」
「ふぇっ!?はいっ!!」
てきぱきとしたアメリアの指示で楓がわたしを担ぎ上げようとした。途端痛みが走る。
「いっちー!もっと優しく!あたしの背中に乗せて!おんぶするから。いっちーはあいちゃんが落ちないように後ろから支えて」
言うが早いか、アメリアはわたしの前で背中を見せてしゃがみ込んだ。そこまでされると何だか恥ずかしい。大丈夫、立って歩けるから、と断ろうとしたが、背後から優秀な従者になったかのような楓が羽交い締めにしてきた。
「待ってって!歩けるから!」
そのわたしの意見は聞き流され、わたしはアメリアの背中にぎゅうぎゅうと押し付けられた。その背中は思ってたよりも大きかった。




