morning―11
その事故は自動運転が導入されて以来最大の参事であったと報じられた。年末、帰郷ラッシュによりハイウェイには車が溢れていた。自動運転が本格的に導入されてからは渋滞問題が解消され、ハイウェイは混雑しながらも順調に流れていたらしい。そんな中、一台の車が速度制限を大幅に無視し走行、追い越し車線に出ようとしたところハンドル操作を誤り前方車両と衝突、そのまま2台はスピンを起こし車線を塞いだ。そこに後続の車が突っ込んだのだ。当時にはほぼ全ての車に、前方に障害物がある場合、自動でブレーキをかけるシステムが導入されていた。しかし、いくつかの車は誤作動を起こしたのか、停止することなく事故現場に突進していき、大参事となった。
「あの事故に関与してたって、どういうこと?」わたしは尋ねた。
「あの事故で誤作動を起こしたとされる自動車が搭載していた人工知能は全て、今回の旅客機に搭載されていたものと同一のタイプのものだったようです」
「そんなものがまだ使われていたの!?」わたしは驚きの声を上げた。
自動運転が導入されてからというもの交通事故は激減した。しかしそれでも何度か事故は起こり、その度に自動車メーカーは賠償とリコールを行ってきた。そしてそれはあの事故に関しても例外ではなく、当事者となった企業は多額の賠償金を支払い、その後倒産したはずである。であるはずなのに、その事故を発展させた張本人とも言うべき人工知能はアップデートされ、その後ものうのうと使用され、また事故を引き起こしたというのだ。
「会社は潰れたはずなのに、なんでそこのAIがまだ使われているの!?」
そんなことの為にわたしは一度死んでしまったのかと思うと、怒りがふつふつと湧いてきた。このエピソードであれば「歴史は繰り返す」よりも酷い慣用句が作れそうである。
「どうやらこの人工知能は自動車メーカーが自社で作成したものではなく、外部の企業から買ったもののようです」アルはわたしの感情とはお構いなしに、冷静に返答した。
「でも、だからってあんな大参事を引き起こしたものを、そうも使い続けられるもの?」わたしはアルに噛みついた。
ちょっとその企業どこよ、わたしは感情的にアルへ資料の提示を求めた。すぐさまアルは企業情報をわたしの視界に表示する。さすがわたしの強力なエージェント、とアルの仕事の速さに感心しながら、企業名へと目を走らせた。Inc.World of Providence Systemとある。
「WPS?胡散臭い名前ね」何でこんな企業がのうのうと運営されているのか。自分の元の身体も関係しているとあってわたしは、何とか損害賠償請求出来ないかと考えた。退院したら早速調査に赴かなければ、と固く決意しながら、代表者名を探す。
「え…?」代表者名を見つけた途端、驚きのあまり思考が停止してしまった。
CEO:Kuniaki Kasai
「カサイ……クニアキ」呆然としてしまう。今までずっと思い出すこともなかった名前。突然心臓を鷲掴みにされたような衝撃に襲われる。
その動悸に思わず、胸に手を当てそうになる。まぁ、当てるための手が動かないのだけども。




