涙
目の前で白沢先輩が息を荒げている。
僕を見る目にはもう力がない。
好きだという気持ちをぶつけるのがこんなに難しいことだと僕は知らなかった。
ああ、僕は何をしているんだろう。そう我に返る瞬間が何度もあった。
でも白沢先輩を目に入れると、その瞬間から愛しい気持ちがドロドロと溢れだしてひたすらに彼を汚してしまった。
僕は浅ましい人間だろうか。白沢先輩が余りにも眩しいから少しでも濁らせて近づきたかったのかもしれない。
今となっては自分の本当の気持ちさえよく分からない。
白沢先輩が両手を広げている。
僕を招き入れるためだろうか。それとも不完全な降参のポーズだろうか。
聞いたら彼は答えてくれるだろうか。
白沢先輩が掠れた声で僕の名を呼ぶ。
ああ、僕の名前を覚えていたんですね。それだけで僕は涙腺が収縮するのを感じた。
僕は涙で白沢先輩の服を汚さないように目を擦り、彼の背中に手を回した。
彼を抱き締めるには短すぎるこの腕がたまらなく憎かった。
もっとこの腕が長かったら、もっとあなたを強く抱き締めることが出来たなら、きっともっと僕の気持ちが伝わるはずなのに。
白沢先輩が僕の背中に手を回した。
僕よりも長いその腕は、ただただふんわりと包むように僕を抱き寄せた。
結局また僕は白沢先輩の服を涙で汚してしまった。