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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
9/52

毒慣らし

目がさめると、気分は最悪だった。

体は重いし、疲労感がある。喉もカラカラで声が出ない。


「アシュリー様ッ‼︎アシュリー様がお目覚めになりましたッ‼︎‼︎」


そんな大声を出してはだめよ、と言おうとしたが声が出ない。はくはくと息が漏れるだけだ。


「アシュリー様、ご気分はどうですか?起き上がれますか?どうぞ、お水を」


ナンシーの助けを借りて起き上がり、水を飲ませてもらう。

むせてしまい、ごほごほと咳をした時大きな音を立てて扉が開いた。


「アシュリー、」


いつもの余裕ある兄とは違い焦った顔の珍しい兄がいた。

大丈夫です、と微笑むが兄の辛そうな顔は変わらない。


「大分、体力がおちておりますな。体力が戻るまではご安静になさって下さい。」


兄は治癒師の言葉を聞くとナンシー共々、そのまま下がらせた。


「お兄様、私…」


「毒を盛られたんだ。犯人はまだ分かっていないけれど。」


兄の苦しそうな顔を和らげたくて、手を伸ばすと少しだけ微笑んだ後にきつく抱きしめてきた。


「アシュリーが倒れたと聞いた時、心臓が凍りついた。眠っているアシュリーを見て、このまま目覚めないんじゃないかと怖かったんだ、」


いつになく弱気で呟く兄の背中におずおずと手をまわす。

私の頭を撫でた後、眉を下げながら兄は私から離れた。


「情けないところを見せてしまったね。アシュリー何か食べれるかな。3日も眠っていたからね」


3日も眠っていた事実に驚き、開いた口が塞がらない。色々なことに頭がついていけない。


「そんなことになっていたんですね、私…」


更に話を聞こうとした時やってきたのは母と姉だ。


「目覚めたのですね、何よりです」


そう言う割には、ちっとも嬉しそうではない。姉はというと何故だか嬉しそうにしている。


「今回の件、旦那様にも連絡し、ひとつ決まったことがあります。」


「母上…?」


兄が訝しんだ声で母をよぶ。


「この先、また毒が盛られない可能性も否定できません。ですから、体力が戻り次第、毒慣らしをしてもらいます。」


毒慣らし。言葉だけでもいいものではないと分かる。


「母上っ、それは古びた伝統です!」


焦る兄を見て不安が募る。


「次、毒を盛られた時は今回のように済まされないかもしれません。大切な未来の王妃の最悪を考えて出した結論です。」


「それなら、毒を盛られない対策をする方が先なのでは」


「毎日の食事は毒見しています。ヴィンセント、貴方はただの水やお菓子にもいちいち毒見をしろと言うのですか。」


「それはっ」


「これは旦那様のご判断でもあるのです。貴方が口出しできるようなことではありません」


母の冷たい視線が私に向けられる。


「そういうことです、一刻も早い回復を祈ります」


そう一言告げて早々に部屋を去る母。後に続く姉は私の方を見て笑う。先ほど嬉しそうにしていたのは、こういうことだったのか。


怖くなり思わず兄の袖を引く。


「アシュリー」


私の名前を辛そうに呼ぶ今の兄は無力だった。


********


毒慣らしのことを聞いたナンシーは私を見るなりおいおいと泣いた。それを慰めながら毒慣らしとはそんなにも恐ろしいものなのかと考えた。

名前からして体に毒を慣らすものなのだろうかどれほど辛いものなのかどうやって慣らすのかはよく分からなかった。


日々、戻りつつある体力。

ある日、毒慣らしを調べようとナンシーに黙って書庫に向かった。

書庫へはそう遠くはないが、完全に戻りきっていない体力では書庫についた途端へたり、と倒れこんでしまった。


少しだけ休憩をして、本を探す。本は意外にも簡単に見つかった。毒慣らしのことが書いてある本は古びた王家のしきたりなどが書いてあるものだった。


毒慣らしを知り、呆然とする。

どうやら、毒慣らしとは長い期間にわたり少量の毒を食事に含ませて体に慣らすらしい。慣れるまでは相当な時間がかかり、毒による副作用がひどく場合によっては死んでしまうこともあるとか。

ご親切に毒慣らしの挿絵までのっていて男が両腕を大男に捕まれ、泣き叫んでいる。これを自分も体験するなど考えただけでも恐ろしい。

震える体を自身で抱き、書庫を後にする。


部屋に戻るとナンシーが戻ってきており、怒られたが私の真っ青な顔を見るなり顔を歪めた。

明日からは食事の量を減らそう。そうして、体力が完全に戻るのをできるだけ遅らせようとした私の決意は次の日の朝、母によって見事に打ち砕かれた。


「昨日、一人で部屋から出たそうですね。大分、体力も戻ってきているなら毒慣らしも明日から始めることとしましょう。」


急すぎる予定にめまいがする。嫌だと泣き叫んでみたら変わるだろうか。そんなことをすれば、死んでやると言えばやめてくれるだろうか。

そんなことを思い母を見るが、やはりいつもと変わらない無表情な顔を見ると絶望してしまう。

私の了承すら聞かず、出て行ってしまった扉を見つめる。


結局、どうすることもできず私はただ朝が来るのを待っていた。

毒慣らしに関するものは全て想像です

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