凛とした顛末
短めです
あの後、ナンシーにそれとなく昨日のことを誰かに話したか、と尋ねると答えはノーだった。
これ以上考えるのはよそう、と本能がいう。
それに従い、もやもやしながらも今回のことは知らないふりをすることにした。
兄が私によくないことをするはずがないとどこかで信じている自分がいた。
「アシュリー様?どうかされましたか」
心配そうな顔をしたナンシーが私を覗き込んだ。
「なんでもないの、ごめんなさい」
そうは言ってみても、ナンシーの顔が晴れることはなかった。
「何かあるなら仰ってください、その為の私です。」
「本当になんでもないの、少し考えごとをしていて…」
これ以上の詮索はしないでほしい、と通じたのかナンシーはそれ以上問い詰めてくるようなことはしてこなかった。
それから数日間、アインの姿を見ることはなく、兄の側にもいる気配はなかった。気にしないといっても頭の中では引っかかっている。
溜息をついた私にマナーの先生がピクリと眉を動かす。
「アシュリー様。人前で溜息が厳禁であることなど3歳の時にご存知のはず。今までの授業は無意味だったということでしょうか。」
きりりとつり上がった目で私を見つめるマナーの先生は女性だが、怖い。とても。
その言葉で背筋がのび、謝罪を言葉にした。
「謝罪は結構です。では、続きを。」
はい、と頷きテーブルに置いてあるグラスを手に取る。
こくりと一口、口に含む。
炭酸水のしゅわしゅわとした刺激が広がる。
それと同時になにかの風味を感じ取った。疑問に思ったのは数秒で、飲み込んでしまうと気にならないものだった。
マナーの先生に見張られながらも授業を終わらせ、昼食まで庭で過ごそうと控えていたナンシーをよぶ。
「ナンシー庭に行くわ」
「はい、かしこまりました」
今日の天気は私好みだ。
さわさわと風が吹き、心地よい日差しがさす。
パーシブル家の表立った庭ではなく、裏の手入れが充分に行き届いていない庭の方に行き芝生の上に座る。
レディが芝生の上に座るなど、と最初はナンシーに咎められたが今ではもう当たり前のこととなり、なにも言われることはない。
寝転び芝生の匂いをいっぱいに吸い込む。
この屋敷に来て、よかったことの中の貴重な一つだ。
少し気を抜くと眠ってしまいそうになる。うとうとしているとナンシーに声をかけられる。
「アシュリー様、そろそろお時間が」
なかなか起き上がらない体に鞭を打ち、身なりをさっと整える。
その瞬間、体がぐらりと傾く。
ナンシーが私の名前を悲鳴に近い声で呼ぶのが聞こえた。
最後に見たのは、紫の瞳をもつアインだった。