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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
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あの人の正体

今日は、朝からついていなかった。


朝食へ向かう途中、突然開いたドアにぶつかり、真っ青な顔でメイドには謝られるし、朝食では紅茶をこぼして兄に拭いてもらったり、しまいには乗馬の稽古で蛇に驚いた馬に振り落とされそうになった。


本日何度目かわからない溜息を吐くと、ナンシーが苦笑を浮かべた。


「そう気落ちなさらないで下さい、たまたまですよ」


ナンシーの慰めの言葉に、虚ろに返事をした。


「私、お兄様にハンカチを返してくるわ。」


では、私も。と動き始めるナンシーを制止する。


「大丈夫、お兄様のところだもの。何もないわ」


それでも渋るナンシーを説得し、朝、ドレスを拭いてくれた兄のハンカチを握りしめノックする。


「失礼します、お兄様、朝…」


入ってすぐ目に入ったのは、兄のそばに立つ長身の男だった。

私の入室に気づいた男は、こちらを見て浅く礼をした。


紫の瞳の彼だった。


思わぬところでの再会に驚き、言葉を失っていると兄が声をかけてきた。


「アシュリー?どうしたんだい?」


「い、いえ、その、」


私の視線が隣の男から離れないのを見た兄は私と男を見比べる。


「アインがどうかしたのかい?」


アインというのかこの人は。


「あの、先日、危ないところを助けていただいたんです」


アインと呼ばれる男に深々と頭を下げた。


「先日はありがとうございました。あの時は気が動転していて、その、お礼もできず申し訳ありませんでした」


アインはその言葉に動く様子を見せない。以前、黙ったままの彼を見て、どうしたものかと慌てる私に兄は面白そうに笑った。


「アシュリー、アインは私の部下なんだ。つまり、このパーシブル家の者だ。だから、大切なアシュリーを助けるだなんて当たり前のことだよ」


ねえ、アイン?と問いかけられてもアインはただ頷くだけだった。

もしかすると、彼は喋れない人なのかもしれない。


「で、本来の目的はなんだったんだい?」


ここにきた目的を思い出して、慌ててハンカチを出した。


「今朝はごめんなさい、お兄様、ハンカチも汚してしまって…」


「ああ、大丈夫だよ。それより、火傷はどうだったのかな?」


「大丈夫でした。放っておいても治るようなものだと。念のため、治癒師に手当てしてもらいましたが」


それはよかった、と微笑む兄は私の髪をそっと撫でた。


「アシュリーの綺麗な身体に傷が残るなんてことがあったら大変だ」


「そんな、私なんか…」


そう言って俯く私に兄は目線を合わせ、悲しそうに微笑んだ。


「そんなことを言わないで、アシュリー。君は私の大切な妹なんだから」


悲しそうに微笑む姿さえ絵になりそうな兄に何だか照れてしまってハンカチをばっと押し付けた。


「ありがとうございましたっ」


「うん、どういたしまして。今度は気をつけるんだよ」


はい、と頷くと頭を撫でられる。


「アシュリー、これから書庫に行くのかい?」


「はい、そのつもりです」


私の答えにふっと兄が笑った、


「今度は、上段の本が見たくなったら人に頼むんだよ?」


「…?はい」


いきなりのことだったので、首を傾げながらも返事をした。


退室間際、チラとアインを盗み見るが、やはり何を考えているのかわからない顔で真っ直ぐ立っていた。


一旦、ナンシーに声をかけてから書庫へ行こうと思う廊下でふと、思った。


私は兄に書庫でアインに助けてもらったと言っただろうか。それに、詳しいことなど一切話していないのに。


言い知れないものが背中を走る。


きっと、ナンシーに聞いたかなんかしたのだろう。それに、梯子が壊れたということを知ってあんなことを言ったのかもしれない、と勝手に解釈し、足早にナンシーの元へ向かった。

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