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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
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心地よい檻

慣れとは怖いもので2ヶ月も過ぎれば、軟禁のような生活も既に当たり前のことになっていた。

やはり、兄は忙しいようだ。けれど、食事は極力一緒に摂るようにしてくれた。夜だって、疲れている兄を労うために眠い目をこすりソファにじっと座って待っているのだが、結局、耐えられずに気付くと兄にきつく抱きしめられながら、ベッドにいるなんてよくあることだった。いつもは隙なんてまるで見せない兄の気の抜けた寝顔を見る度に、私が思っている以上に私はこの人に愛されているのだなと感じるこの瞬間は好きだった。

この2ヶ月でぽつりぽつり、と姿を見せるようになったアインとツヴァイはいつもと変わらない様子で接してきてくれた。アインの気遣いは心地よくツヴァイの軽口は私を楽しませた。

暖かくて心地の良い居場所を見つけた私は、事件のことも外への興味も失っていた。ここにいれば、誰の視線に脅かされず罵られることもない。

ここから抜け出すという考えも見知らぬ誰かの言葉も今のアシュリーに必要なんてなかった。



「お兄様、またおしごと?」


朝、目覚めると、兄がちょうどベッドから出るところだった。ぼんやりとした頭で問いかけると兄は起こしてしまったかな、と頭を撫でてきた。

その心地よさに目を細め、再び眠りに落ちそうになる瞬間、ふと、兄に会うのは久しぶりな気がして、慌てて意識を呼び戻した。


「お兄様、きょうはここにいて?いちにち、ずっと、ふたりでいるの、」


ねえ、いいでしょう?と兄を見上げると頭を撫でていた手は頬を撫で始めた。

ああ、この人は寝かせてしまおうとしているな、と分かり、意地でも目をあける。

そんな私の姿に苦笑して、やっと兄が口を開く。


「どうしたのアシュリー、今日は甘えたい日なのかな」


「お兄様にはいつだって、あまえています、でも、さいきんはあまり会えないからさみしい」


頬に添えられている手に擦り寄ると、兄は私の額に唇をよせた。


「ごめんね、アシュリー、寂しい思いをさせるつもりはないんだよ」


兄に困ったような笑い方をされたら私は弱い。それを兄が分かっているのか分かっていないのかは、わからないが。

子どものようだからふくれっ面にはなりたくなかったが、既になっているような気がして俯いた。宥めるようなキスが心地いいのもなんだか不服だ。

結局、兄には全部分かられている。扱いやすいのだろうか、私は。


「さあ、まだ眠っておいで」


兄の目を見つめていると再び眠気に襲われ、瞼が重くなった。

ああ、お兄様が行ってしまう。いってらっしゃいのキスもまだなのに。


「待っておいでね、アシュリー。もうすぐだから」


瞼へのキスの心地よさを感じ、意識が完全に夢の中へ吸い込まれていった。





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