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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
41/52

ナンシー

更新遅くなって申し訳ありません。


興奮したように頬を染めて話をやめないナンシーに言い知れぬ恐怖を感じていた。


ナンシーが話すことは全て私への賛美と神への感謝だった。

見たことのないナンシーの姿に呆然としながらも、勇気を振り絞って声をかける。


「まって、私、分からないわ、」


聞こえたかも分からないか細い私の声でもナンシーには聞こえたようで動きがぴたりと止まった。


「はい、アシュリー様、何が分からないのでしょうか?」


にっこりと微笑むナンシーはいつもと何も変わらないのに、身体が固まって言葉が出てきてくれない。


「わ、わからないわ、ナンシー、神の思し召しってなに?どういうことなの…?」


「うふふ、アシュリー様ったら、そんな怖い顔をなさってはいけませんよ。大丈夫です、何でもお答えいたしますから」


「ふふ、でも、それはここを出てからの話ですわ」


「ここを…?」


「はい。大丈夫です、アシュリー様、私と共にここを」


差し出された手をじっと見つめて問うようにナンシーを見つめるが、ナンシーの瞳はどこまでも穏やかだ。


「ここを出て何処へ?何故、ここから出る必要があるの?ナンシー貴女は私の味方…?」


私が矢継ぎに質問を投げかけるとナンシーの瞳がすうっと深みを増したのを感じた。


「…お側を離れた少しの間に随分とお変わりになりましたのね」


変わった?私が?

変わっていない私は。

ツヴァイに言われた通りの弱い、守られることしか能がない弱虫。


「質問に答えてっ!ナンシー、ナンシーっ」


縋るように差し出されたナンシーの手を包み込み必死で訴えかける。


「勿論、私は神の御子である貴女様の味方ですわ」


さあ、と今までにない力で引っ張られぐいぐいと扉に連れて行かれる。

必死に抗ってもビクともしない。

体全体に体重をかけてその場に留まろうとしているのにあろうことか、ナンシーは片手一本で涼しい顔をしている。


「いやっ、やめて、こわい、ナンシーッ!」


「どうしたというのです。何を怖がることが?やはり、アシュリー様は変わられた!この家にいるから駄目なのです!ヴィンセント様に毒されたのです、それともあの忌々しい従者たちに⁈いつもいつも、私を見張ってっ!神のご意思を遂行しようとする私たちを邪魔するのですわ!」


ナンシーに掴まれた手が痛い。


「さあ、参りましょう、アシュリー様!!」


「いたっ、ナンシーッ!やめっ」


それでも抗う私にナンシーの血走った目が向けられ、手が振り上げられた。


殴られる…!


そう思ったけれど、いつまで待っても衝撃はこない。


おそるおそる目を開けると目の前にはあの紫の瞳があった。


「アインさん…!」


「この、悪魔っ!アシュリー様をお離しなさい‼︎」


ナンシーが後ろで叫ぶがそれを声が遮った。


「そろそろ終わりにしようか。ナンシー」


扉近くには腕組みながらこちらをじっと見つめる兄がいた。





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