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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
36/52

姉の結婚

お久しぶりです。

クラウス先生に出されたドーラ教典の読破が4週間と6日目にして漸く終わった。


5週間という期日の中で辞書ほどの厚さのあるものを二冊も読むのは想像以上に大変なものであった。


この屋敷には今、私の話し相手が一人もいない。そのおかげもあって、教典を読むことに集中はできたが、やはり寂しさを感じてしまう。

いつもなら、ここでナンシーがお疲れ様です、と微笑みながら温かい紅茶と甘いお菓子を出してくれるに違いないのに。


指折りでナンシーが帰ってくるまでの日にちを数える。

あと3日。

短いようで長く、先が思いやられる。


ナンシーがいない間、私の世話をしてくれるのはナンシーと親しいメイドのマーガレットだった。

だが、マーガレットは必要最低限のことしかしない。会話もほとんどないに等しい。けれど、放置されてしまうよりは幾らもマシだとつい不満に思ってしまう自分を律しながらいた。


話は変わるが、ついに姉が嫁ぐらしい。

最近、屋敷が慌ただしく、姉の婚約者様の使者が頻繁にここを出入りするものだから、なんとなく察しはついていたが、つい先日、剣の稽古帰りに廊下を歩いていると、いつもより自信に溢れた顔をした姉が私を待ち伏せていた。

嫌な予感を感じ取った私は、早々に逃げ去るつもりだったが、呼び止められてしまい逃げようとする足をどうにか抑えて姉に礼をとった。


姉曰く、1週間後には結婚式なのだとか。ここまで間近に迫っていたとは思わず、少しだけ驚いた。

その結婚式は王宮で盛大に行われるらしく、その素晴らしさと壮大さを長々と語っていた。

その煌びやかさを想像するとうっとりとした溜息が出てきそうになるが、姉のこの話が‘‘だから素敵でしょう?”で終わらないことは、ここ何度かの経験で理解していたので身を引き締めながら話を俯きながら聞く。


そして、やっと姉の声が高くなりそれでね?と話を切り出した。

何を言われるんだろうな、とドレスの裾をぎゅっと掴む。

だが、姉は貴女は結婚式には呼ばないわ、貴女みたいのが私の結婚式に来たらお葬式みたいにじめじめしてしまうもの、と最近使い方を覚えたのであろう扇子をぱっと広げ笑った。

そもそも呼ばれるだなんて思っていなかったし、人が多く集まるところに行くのは気が引けてしまうからむしろ安心したくらいだ。


話はそれだけらしいので黙って頷き、逃げるように部屋に戻った。


…ということがあった。


結婚式は明日に迫っている。

私にはなんの関係もないが、聞かされた煌びやかな式やその後に開かれるパーティを想像するとやはり少し覗いてみたかったなあ、と思ってしまう。

花嫁は真っ白なドレスを着るのがしきたりだと本で読んだことがあるが、それも姉の流れるようなブロンドにはよく似合うだろう。

ふと、自分が王様と結婚式を挙げる時は、真っ白なドレスじゃなくとこの髪と目と同じ真っ黒なドレスかもしれないな、も苦笑した。


はやく、はやく、迎えに来てほしい。

私の王様。私と同じ黒を持つ人。



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