主と従者
停滞ごめんなさい…
久方ぶりに会った主は、気丈に振る舞っているようだったが目の下の隈がここ数日の苦労を表しているようだった。
「ツヴァイ、神族の国の行き方は分かるかい?」
この主に拾われて、地獄のように勉強させられたからこの国の周辺の地形は大体、頭に入っていた。それに、任務上、色んな国に赴くことが多いため神族の国のルート位、余裕で理解できる。
そんな意味を込めて頷くと、主は意味ありげに笑い小綺麗な便箋に入った手紙を渡してきた。
裏返してみるが、スペンサー家の家紋は見当たらない。公的なものではないのだろう。
「事情は送った手紙に書いたことが全てだ。それと子どもを連れて神族の国に行ってきてほしい」
「子どもは5人…すよね?」
5人の子どもを一人で。しかも、相手は神族だ。
「子どもたちは聞き分けがいい。ツヴァイなら、大丈夫だよ」
目も合わせず、手元はせっせと執務に取りかっかっている主に溜息が零れる。
なにが、大丈夫なんだろう。
「一応、聞いときますけど、この件、ご当主様は認可されてるんすか?」
「いや」
予想はしていたことだから、落胆はしないが、気が重くなった。
ここの当主は化物のようだと思っている。
その迫力や恐ろしさを持ったあの当主に逆らうのだから主も中々の人だとは思う。
再び、溜息をついてようやく主が顔を上げた。
まだ、いたのかという顔をされて思わずムッとなった。
「言っときますけど、俺の移動魔法は至近距離じゃないと無理っす」
「知っているよ」
「それに大人数で移動魔法なんて使ったこともない。それなのにどうするって言うんすか?」
「ツヴァイ。アシュリーを泣かせたんだって?」
鼓動が跳ねた。
真っ直ぐに自分に向けられた青い瞳はどこまでも穏やかだった。
動揺を悟られないように、見返す。
「それがなんなんすか?」
「詳しい内容は聞いていないけれど、珍しいな。ツヴァイが怒るだなんて」
きっとこのことを報告したのは自分の片割れだ。
いつの間に、と考えるより先に主の真意を探った。
怒っているようには見えないが、機嫌がいいわけでもない。
「アシュリーは少し考えが甘いところがあるからね。いつか諭さなければとは思っていたんだ。私自らね。」
それなのに先を越されちゃったな、と聞こえた気がして震えた。
このシスコ…いや、主は独占欲が強すぎやしないか。
「…任務に行ってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
これまでにないほど、穏やかな笑みで見送られた。
この任務は一種の罰なのかなと思うと、本日何度目かの溜息が零れた。
子ども5人を遥か遠くに無事に送り届けて、神族相手に脅しをかける。
それが、今回の任務だと気を取り直して、子どもたちの待つ民家に向かい出した。




