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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
34/52

ある受難

父の許可が取れなかったからといって、大人しく事が流れていくのを見送るほどできた人間ではない、とコーマックの脅しを適当にあしらいまたウラヌスに飛び乗った。


どこからそんな力が湧いてくるのだろうと思う程に疲れは感じなかった。

それはウラヌスも同じようで手綱を握るとまた駆け出した。


神族の子どもたちはアシュリーを守る為には重要な存在だった。

今はすぐに子どもを親元に返せなくても、優秀な従者のどちらかにいつか返させればいいと思いとりあえず領内の空いている民家に連れていくことにした。


子どもたちの待つ、洞に到着すると一斉に出迎えられた。

どうやら、一人も連れ去られていない様子だった。

そのことに安堵しつつ、子どもたちに適当に事情を説明するとすんなり頷いてくれた。


「馬には乗れるかい?」


「乗れるよ」

「だってこの馬は神族の馬だもん」


最初に会った時もそんな事を言っていた気がした。


「神族の馬…?ウラヌスが?」


「そうだよ」

「だからここが分かったんだよ」

「ぼくたちが呼んだらすぐに来てくれた」


また新たな事実に驚きつつ、まさかなと思いながらも質問を投げかけてみた。


「それじゃあ、もう一頭、馬を呼び寄せたりできる?」


流石にウラヌス一頭に5人と自分がいっぺんに乗れないので、2回に分けるつもりだったが、もう一頭馬が来てくれるなら一度で済むというものだ。


子どもたちはうーんと小首を傾げながら、目を閉じて思案した。


「この近くにいるかなあ?」

「いないよ、いないよ」

「だってこの馬でさえ、見つけたときはおどろいたもんね」


やはりダメかと思ったとき、1人の子が声をあげた。


「見つけた!見つけた!呼んだよ!」


「本当かい?」


「うん!ほんとうだよ!」


すごいすごい、とはしゃぐ子どもたちを呆然と見つめた。

こんなことってあるのだろうか。


暫くして本当に馬が来た。

たてがみが美しく、顔立ちも凛々しい正に神族の馬だった。


子どもたちを馬に乗せてやり自分も馬に乗った。

自分が乗っている方はよかったが、子どもだけで乗っている方が心配だった。


「乗ってられるかい?」


「だいじょうぶー!」

「神族の馬だもん」

「へいき!」


「しっかり馬に捕まっているんだよ」


元気な返事が森に響いた。


「ウラヌス、今度はゆっくりでいい」


ウラヌスは心得たとばかりに高く嘶いた。


手綱を握ると本当にゆっくりと歩き出し、それに倣って後ろの馬も後をついて来た。


後方の子どもたちは上手く乗れており、自分の前にいる子どもたちも楽しそうに話していた。

だが、不気味な森の奥に入るほど子どもたちは徐々に元気がなくなっていった。


「大丈夫かい?」


「…この森、わるいものがすんでる」

「 かわいそう、かわいそう」


戦を仕掛けてきた者たちの様子を見ても、この森に何か良くないものがいるのは明白だった。


「でも、僕たちには近づけないよ」

「かあ様の守りがついてるからね」


そうだよ、そうだねとまた楽しそうに笑い始め、子どもたちが元気を取り戻したことに安堵し、まだ遠い領内を目指した。




領内に着いた時、誰も通らない道を通って人目につかない民家に子どもたちを入れた。


子どもたちは新しい場所に興奮しているようで、走り回ったり飛んだりするのを窘めながら、また約束を交わした。


ここを出ないこと。誰か来ても開けないこと。


すぐに頷いた子どもたちには、やはり疑う心は微塵もないようだ。

ここまでくると、少しくらい人を疑うことも覚えさせた方がいいのかもしれない。


しっかりと民家の鍵を閉め、ついでに守護の魔法もかけておいた。


あとは、城塞に戻りどちらかの従者を呼び寄せる手紙を書くだけ、と長い1日に溜息をついた。


********


屋敷に主からの手紙が届いた。

その内容に驚きつつも片割れを見やった。


「ツヴァイ、主からの命令だ。至急、城塞に行ってから神族の国に行ってこい」


「はあっ⁈なんだよその過重労働‼︎しかも俺、昨日、ここに帰ってきたばっかりなんすけど⁈」


喚く片割れの顔面に主からの手紙を押し付ける。

渋々と手紙に目を通し、その内容に自分と同じように驚いた。


「…まさか神族が?」


「ああ。子ども相手ならお前の方がいいだろう」


「でもまだ俺、任務途中つーか」


「それはもういい。証拠は掴めば、もうこちらのものだ。今は主のその命令が最優先だ」


「へいへい、分かりましたよ」


何か言いたそうなツヴァイに背を向けると、深くため息をつく音が聞こえたあと気配が消えた。

振り向くとそこにはツヴァイの姿はなく、命令に従ったことを悟る。


ゆっくりとしかし確実に始まろうとしている

何かに身構え、自分も任務に戻るため部屋に戻った。





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