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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
28/52

廻る廻れ

戦いは呆気ない終わりを迎えた。

およそ、戦とは呼べないようなものでこちらの兵が一方的に向かってくる者らを殺す、というものだった。

中には農具だけを持ち、装具など身につけていない女や年端のいかない子供もいたが、兵たちは一瞬躊躇いながらも容赦しなかった。


それを目の当たりにしたヴィンセントは、後方を振り向いたがそこに居たのは涼しい顔をしたコーマックだった。

どうやら皆殺しというのは決定事項のようだ。


数時間で全てを鎮圧した後、転がる死骸の数にまた驚く。

それは、兵士たちも同じようで呆然と辺りを見回す者も多かった。


いくつかの死骸の上にはチラチラと揺れる青い光。魔力の証だ。

パラディン王国の者に魔力を持つ者は身分の高い者がほとんどだと聞いていたが、何人かは魔力を持ち合わせていたようだ。

うっすらと光る今にも消えてしまいそうなその青い光はその者の魔力の小ささを示していた。


「お疲れ様です、皆さん。今日はゆっくり体を休めろ、と旦那様のご命令です」


コーマックが優雅に馬に乗り、立ちつくす兵たちに声をかけていく。

コーマックの体にはもちろん、その馬でさえ擦り傷や返り血を被った形跡はなかった。


「ああ!魔力には触れないように!」


他人の魔力は奪い、自分の魔力にすることができる。

だが、それはどの国も共通して禁じられていることだった。

かつて、魔力の奪い合いでどの国も消耗し荒れ果てた時代があった。その悲惨さは今なお鮮明に語り継がれ人々の恐怖として幼い頃より教えられる。

もしも他人の魔力を奪ったとなると大罪となり、弁明の余地もなしに処刑され魂を永劫に縛られ続けるという聞くだけでも恐ろしい罰が与えられる。

王宮の地下にはその罪を犯した者らの魂があるのだとか。古くて2500年前のものもあるらしい。


それを思い出し恐怖した兵たちはすごすごと城塞に向かって歩を進めはじめた。


ヴィンセントもそれを見て、自分も戻ろうと愛馬の手綱を持った。

しかし、愛馬であるウラヌスは主であるヴィンセントの意思とは反し、城塞の反対側に向かい出した。


「ウラヌス?どうしたんだい、そっちではないよ」


愛馬に問いかけてみるが応えることはなく挙句、どんどんその速さは上がり、反対側に行ってしまう。あの魔境の森に。


いよいよ魔境の森に近づいた時、ヴィンセントは声をあげて愛馬の手綱を強く引いたが、高く声をあげたかと思うと一気に駆け出した。

異変に気付いた兵士たちの慌てた声が後ろからするが、ウラヌスが止まる気配はない。


そのままヴィンセントとウラヌスは深い深い魔境の森へと姿を消していった。


後に残された兵士たちはどうすることもできず、その後ろ姿を茫然としてその後ろ姿を見送った。




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