物語の顛末
もう26話目だというのに、話があまり進んでいない気がします…
兄が兵を引き連れて3週間がたった。
依然、兄の行方は知らせてもらえず、ただ一人で日々を過ごしていた。
ツヴァイの言ったことが私の胸を容赦なく突き刺し、悩ませた。
あれからツヴァイを見ることもなくなり先週はあった気配すら感じなくなった。
避けられている。
あんなことがあったのだから、当然なのだがあの言葉を思い出すたびに反論や疑問が浮かび、それを言いたくてたまらなくなる。
片割れであるアインにも会えず、2人がこの屋敷にいるのかすら分からなかった。
もしかしたら、兄に着いて行ったのかもしれない。
優秀なんだろうからそれも頷ける話だ。
それともう一つ。
先週からナンシーは帰省すると、いなくなってしまったのだ。それを聞いた時、嫌だと言いたかったが、久しぶりに家に帰るのが楽しみだと笑いながら言っていたので言葉を飲み込んだ。
そんなことがあり、屋敷の中に一人取り残されてしまった気がしてならない。
会話といえば授業の時に先生に質問する程度だ。
同じだ。ツヴァイの言った通りだった。
『君はあの塔にいた時と何も変わってない。変わったのは周りの環境だけ。君自身は何にも変わってない。自分も変わっただなんてただの錯覚だよ』
ちっとも変わってない。
やっぱり分かりたくなかった。
********
バーハティア王国とパラディン王国の国境にいちばん近くにあるのはパラディン王国にあるウォーリア村だ。
その村の男子は多くが兵士なので村というよりかは、兵士の家族が集って住んでいるという方が正しいのかもしれない。
国境に近く位置しているにも関わらず、ウォーリア村は豊かで平和だ。
村に働き手である男がいない分、女はくるくると働く。この村の女はそこら辺の男より度胸や腕っ節が強くそのせいもあり、賑やか皆が過ごすことができるのだ。
そんな平和が崩れ去ったのは3週間ほど前のことだった。
ある一家が朝になっても家から出てこないことに違和感を覚えた隣人がその家を訪ねた。
中にあったのは、見るも無惨な光景だった。
村の中でもよく働くと評判だった女とその子ども2人の死体があった。
小さな部屋の壁にはまるで塗ったのかというように赤黒い血がこびりつき、そこら辺には四肢が転がっている。
隣人は声にならない叫びをあげた。
異常に気付いた村人たちがその家に集まり、死体を見ては悲鳴をあげた。
だが、その家と少し離れたところからも同様の事態が起こっていた。
その後、兵士たちが確認して分かったのは襲われた家は5軒。それらに住んでいた12人は全員同じように四肢をもがれ死んでいた。
そしてもう一つ。
ある家の中に血みどろになった、バッジを見つけていた。
よく洗い見てみるとそれは隣国、バーハティア王国の紋章をうつしていた。
兵士たちはこれを確認し、王に伝えた。
だが、王は一つのバッジだけではバーハティア王国の仕業だと断言できず、対応を曖昧にしていた。
それに加え、今のパラディン王国には紛争が未だに絶えることはなく、隣国に戦を仕掛けるような力など持ち合わせていなかった。
だが、村人たちは大切な住人がやられてしまったことに怒りを覚えていた。
兵士たちの村ということもあり、村人たちと兵士たちが結束してバーハティア王国に復讐を、と決意を固めてしまった。
これに便乗したのは、ドーラ教の過激派たちだった。日々の紛争に疲れ果てていた彼らは怒りの矛先をバーハティア王国に変えようとしていた。これを良い機会にとこの騒ぎに取り入った。
想像以上に大きくなってしまったことに王は慌てたが、それを止める兵たちはおらず、王にできたのはこの騒ぎに便乗することを禁止する命令を各地に出すことだけだった。
騒ぎたちは、国境を守る兵の大半が村のためにと仕事を放ってしまったため、パラディン王国を簡単に抜け出した。
2つの国の間にある魔境の森を抜ければ、そこはバーハティア王国だった。
だが、この魔境の森は『森が人を狂わせる』と言われているほどに危険で抜けるのは難しいものだった。
ましてや、時は夜。村人たちは夜の間、その森をさまよい続けた。
異変に気付いたバーハティア王国の兵たちはすぐに城塞の守りを強化した。
その城塞の主であるスペンサー家の当主、セルジオはここからは少し離れたスペンサー家の屋敷に使いを出し、息子を呼んだ。
その使いから話を聞いたスペンサー家の嫡男であるヴィンセントは騒ぎを鎮圧するためすぐに屋敷の兵を集め、やっと朝日が昇ってきた早朝に早々に屋敷を発ち、城塞へと向かっていった。
この一連の騒ぎが大きく、バーハティア王国に関わってくることなど誰にも分からなかった。




