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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
19/52

犯人探し

あの件以来、屋敷内に緊張感が増しあの後、何度も兄に呼ばれ花について聞かれた。

いつもの優しい雰囲気の兄ではなく、仕事モードの兄にどぎまぎしてしまった。

尋問のように次々される質問に私はできるだけ思い出し懸命に答えた。だが、あまり役にたっているとは思えない私の答えに兄は普段は見せない溜息をつく。


日にちが経つにつれ、兄の顔には疲れが見え、眉間の皺が増すばかり。

違和感を感じていながらも、何も言わなかった自分が申し訳なくなる。すぐに兄に相談していたらこんなことにはならなかった気がしてならない。


それに、毎度の食事に兄は居らず、母と姉と私とで摂る重圧での食事は実に居心地が悪い。


今日も午前中はお勉強の時間を削って兄の質問に答えていた。

質問が終わりやっと解放された。急いで部屋を出てナンシーの元へ向かう。今は、怖い兄を見ていたくなかった。


******


アシュリーが怯えたように部屋から去り、溜息をつく。

机の上には従者たちが調べた書類が散乱しているのを見てまた溜息をつく。


「あ〜あ、アシュリーちゃん完全に怖がっちゃってるじゃないすか」


「…ツヴァイ」


この従者はいつも自分の気が立っている時に現れ、気に留めていることを的確についているから尚更、腹がたつ。


「可哀想っすね〜俺が慰めに行ってきましょうか?主?」


にやりと笑う従者を睨む。


「……アインはどこに」


「ここに」


音もなく現れたもう一人の従者は一枚の紙を手渡してきた。

さっと目を通し眉間に皺が寄るのが分かる。


「アイン」


「はい。どうやら王城は関係がないようです」


「いくら調べてもなんにも出てこないんすよ。にしても、よくあの花に魔力が込められてるって分かりましたね」


ツヴァイが言うように、あの花には魔力が込められていることを悟らせないような緻密な魔法が施されていた。自分でも何故見破れたのかは分からないが。

そんな高度な技を使えるのは王家やそれを支持する貴族たち、あるいはそれらに雇われた魔法使いの仕業だとにらんでいた。だが、この優秀な従者たちがいくら調べても関係性が見えてこない。本当に関係がないのだろうか。


「ご苦労だった、アイン、ツヴァイ」


「申し訳ありません、主」


アインが深々と頭を下げる。表情が多様ではないアインは心なしか少し悔しそうだ。


「いや。二人とも引き続きアシュリーの警護を。何か動きがあったらすぐに報告を頼むよ」


「調べはどうするんすか?」


主の前だというのにツヴァイは頭に手を組みながら聞いてくる。その態度はどうにかならないのか。


「とりあえず、この屋敷内の人間をもう一度調べてみようと思う」


花を埋める指示は外部だったとしても、埋めたのは屋敷の人間であることは間違いないだろう。

早くなんとかしなければ。大切なあの子のためにも。自分のためにも。

あいつが来るなんてことはあってはならないのだから。


「ちょっ、主!落ち着いてくださいよ」


ツヴァイが焦ったような顔をして自分の後ろを見ている。

振り向くと窓に大きなヒビが入っていた。感情が高ぶり、無意識のうちに魔力が発動してしまったらしい。この間、吸い取ったあの毒師の魔力は予想外に大きく、制御するのにやっと慣れてきた所だった。


「勘弁してくださいよ〜これで物壊すの何度目ですか?またメイドたちが思わぬ出費に泣きますよ」


うるさい従者は無視し、心を落ち着かせる。それでもざわざわと騒ぎ立つ心は抑えられない。焦りがいつもの余裕をなくす。それを出さないようにと意識すればするほど裏目に出てしまう。


「主。少し休まれては。」


珍しくアインが休息を勧め、それに頷くツヴァイ。


「いや、まだやることはある」


「怖い顔してますよ?主。アシュリーちゃんにその顔でまた会うんすか?」


馴れ馴れしく名前を呼ぶなとひと睨みするが、へらへらと笑ったままのツヴァイ。そんなにひどい状態なのだろうか。


「お顔に疲れが出ています。主」


言われてみれば、疲れているような気もする。


「主、可愛いアシュリーちゃんが食事の度に泣きそうになってんすよ?」


それを言われると休む、という選択肢を取らざるを得なかった。少しだけ休もうと寝所に寝転がる。


「アイン、10分したら起こしてくれないか。やることがまだまだたくさんあるんだ」


「御意」


礼をしたアインを見届けると、一気に睡魔に襲われる。

意識を手放す時、アシュリーの怯えたような顔を思い出してしまった。



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