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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
16/52

王家を継ぐ者

お読みいただきありがとうございます!

腕の傷は大したこともなく治癒師が自ら何かをするということはなかった。


付き添ってくれたアインは仕事があるからとそのまま別れた。


アインは、私に付き添っている間終始無言で文字通り付き従えているだけだった。けれど細やかな気配りをしてくれて、優秀な従者なのだなと改めて感じた。


つい先日まで、アインの姿なんて見ることはなかったのにあれ以来時々見かけるようになった。

私の姿を見つけると深く礼をしてくれるし、お話相手にもなってくれる。とは言っても、私もアインもあまり喋るのが得意ではないので一言二言で会話は終わってしまうが。

それでも私にとっては屋敷で話せる人が増えて満足だ。


それに加えて、ツヴァイとも話すようになった。

ツヴァイはよく私の前に現れ、仕事中に見つけた珍しい花やこの間はピカピカだったから、と石をくれた。

アインとは違って、終始笑顔で話し上手なツヴァイは最初こそ対応に困ったものの今ではその姿を見つけると自然と顔が綻んでしまう。


「あ!いたいた、アシュリーちゃん!」


「ツヴァイさん、こんにちは」


今日もツヴァイは、ナンシーがいないときを狙って私の元へやってきた。


「はあ、疲れたあ〜」


「お疲れですか?ツヴァイさん」


「そうなの、お疲れなのさ〜ツヴァイさんは〜だからアシュリーちゃん癒してくれない?」


猫みたいな瞳で私を見つめるツヴァイ。

癒すとは具体的に何をしたらいいのだろう。

小首を傾げた私にツヴァイは更に笑みを深める。


「例えば〜膝枕とか!」


『ひざまくら』とは知らない単語だ。


「ツヴァイさんの疲れがそれで取れるんでしたら」


よく意味は分からなかったが、どうぞと微笑めばツヴァイは気まずそうな顔をした。


「いや、なんかそんな簡単に許されるとは思わなかったよアシュリーちゃん…」


「そうなのですか?」


「…なんかアシュリーちゃんと一緒にいたら自分の醜さが見えてきて辛い」


「私といるのは辛い、ですか」


しゅんとし、俯くと頭上から慌てた声が聞こえてくる。


「いや、違くて…!その、辛いとかじゃなくてさ!その!」


「ふふ、分かってますよツヴァイさん」


顔を上げてにっこりと笑うとツヴァイは呆気にとられたような顔をした後、少し眉を吊り上げた。


「騙したんすか?心配したじゃないすか!」


「ごめんなさい、ツヴァイさん。でもちょっと傷ついたのは本当です」


「う、だからそういう意味じゃないっすよ」


「本当ですか?」


「本当、本当」


「じゃあ、私の質問に答えてくれますか?」


「なんなりと、お姫様」


私に優雅に頭を下げたツヴァイはさながら王子様のようだ。


「今日、この屋敷にどなたがいらっしゃるんですか?」


にっこりと笑って聞くと、少しだけツヴァイの表情が固まったのを見た。

今日は朝から屋敷内が騒がしく、朝食時には母に一日部屋から出ないように言いつけられていた。


「アシュリーちゃんって意外に策士家…?」


笑顔で先を促すとツヴァイは、ゆるゆる話し始めた。


「あれはエリシア様の婚約者様っすよ」


何故か目を逸らしながら話し始めたツヴァイ


「お姉様の…?」


「そうっす」


姉の婚約者の存在は知っていたが、この屋敷に婚約者が来るのは初めてのことだった。


「珍しいことですね」


「婚約が早まったみたいっすから」


ということは、姉はもうすぐでこの家を出て行くのだろうか。


「お姉様の婚約者様はよい方でしょうか」


「…パーシブル家の嫡男、エドモンド様ですよ」


パーシブル家というと、現在の王家の名前だ。今の五代前のパーシブル=シンプソンが神に指名され王となりその子孫が王家を継いでいる。だが、神が新たな王を指名したのでパーシブル王家は現在の国王で最後となる。

姉の婚約者は時期王となるはずだった人ということになる。


「教えてくれてありがとうございます」


「いーえ、これくらい」


それじゃあ、これで。と逃げるようにツヴァイは闇に紛れてしまった。

それと同時に、馬車の到着を知らせるように馬の蹄が鳴る。

ご丁寧にしめられたカーテンの隙間から姉の婚約者を見ようと外を覗く。

少ししてから、馬車の扉が開かれる。

中から出てきたのは、金色の髪を持つ青年だった。その姿はまるで絵本に出てくる王子様のようだ。

ここからは遠くてよく見えないが、ふいに青年が上を見上げ、目があった…気がした。


その瞬間、あまりにも驚いてしまって咄嗟に身を隠す。心臓がうるさい。


目があった?この距離で?ありえない。きっと気のせいだ。


ふうと息を整え、もう一度外を覗く。

そこには、いつもよりも綺麗なドレスを身につけた姉と金髪の青年が仲睦まじそうに話している姿があった。

そんな状況で目が合うはずなんてなく、今度はカーテンをしっかりと閉じて読みかけの本に手を伸ばす。


自分には関係ない。関係ないんだ。と自分に言い聞かせて、ナンシーの持ってくるお茶を落ち着かない心で待った。

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