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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
14/52

記憶の森

アシュリーの生まれた家はスペンサー家です。自分でも間違えました申し訳ありません。

「アシュリー様、起きてください!アシュリー様」


「ん…」


「アシュリー様ったら、もう朝食の時間が過ぎてしまいますよ?」


ナンシーが呆れた顔でこちらを見ていた。


「ナン、シー?」


「はい、ナンシーです」


「何だか久しぶりね、」


そう言うとナンシーは困惑を浮かべた。


「久しぶりって、昨日もずっと一緒に居たではありませんか」


「そうだったかしら…?」


そうは言われても昨日、何をしたかと言われれば何も思い出せない。いや、昨日だけではなくここ最近の記憶があやふやだ。


「アシュリー様、お支度を」


急かされてやっとベットから出て顔を洗うため洗面台に向かう。


洗面台にある大きな鏡は、疲れた顔をし痩せぎみの少女の姿を映した。

その少女を凝視する。

私はこんなに痩せていただろうか。

小首を傾げ、ジッと鏡を見ると鏡の中の少女もこちらをジッと見つめ返す。


馬鹿なことはやめようと大人しく顔を洗い歯を磨きナンシーの元へ戻る。


「ふふ、今日はこのワンピースにいたしましょう」


ナンシーが出したのは、淡いラベンダー色のワンピースだった。とても可愛らしいデザインで地味な私にはあまり似合っていないと思っていたものだ。だが、ナンシーはこのワンピースが大のお気に入りのようでニコニコな笑顔を見てしまうと嫌とは言えなかった。


「アシュリー様、背中お止めいたしますね」


後ろの釦を止め終わった後、違和感を感じる。

ワンピースが肩から落ちていくのだ。以前着たときはピッタリだったというのに。

やはり痩せたのだろうか。だが、いつも通りの食事を取っているし、運動量を増やした覚えもない。思い当たる節がないのだ。


「ナンシー、私…」


「す、少し大きかったみたいですね!別のものを用意いたしましょう」


慌てた様子のナンシーはすぐに別のワンピースを持ってきた。

今度は肩から落ちることなく着れた。後ろからナンシーの安堵の溜息が聞こえた。


朝食を摂るため、広間へ向かう。

朝の支度に手間取ってしまったため、急ぎ足で広間に入ったがそこには兄の姿しかなかった。


「お兄様…?」


「おはよう、アシュリー」


「おはようございます、あの、お母様とお姉様は?」


兄は主人のなくした椅子をチラと見て微笑した。


「ああ、母上は自室でお摂りになるそうだよ、エリシアは婚約者の所だと聞いていたかな」


だから今日はふたりきりだねと笑う兄が綺麗で色んな疑問は何処かへ飛んで行ってしまった。


食事を出されて、何故か背筋が震えた。フォークに手がのばせない。


「アシュリー?食べないの?」


兄の声に我に返る。


「い、いえ、いただきます」


おそるおそるフォークに手をのばし、スクランブルエッグを口に含む。

数回、咀嚼し嚥下した。固形物が喉を伝う。

何も起きない。大丈夫だ。

何が起きるというのだろう、たかが食事で。自分の脅えようが馬鹿らしくなって食事を続けた。


必死になって食べていたから兄がこちらを見つめていたことなんて気付きもしなかった。


朝食が終わると、いつも通りのお勉強が始まった。これも不思議なものでいつもは先生が来る前に少しだけ前回の復習をするのだが、前回どこを学習したのか、どの教科も思い出せなかった。

だが、先生は自然な流れで教科書のページを指定して勉強が始まった。チラと隣のページを見る。前回やった覚えがなくもない所だった。


午前の勉強が終わり、やはりどこか変だなと思う。

顔を上げると無意識のうちに、書庫の前にいた。なんで書庫に?不思議に思いながら来た道を戻ろうとした時、はっと思い出す。

アインとはあれ以来会えていない。兄の元に仕えているからといっても中々、姿を見ることはない。もう一度会ってみたいなあ、とぼんやり思う。が、何かが頭に引っかかる。本当にあれ以来会っていなかっただろうか。いや、会った気がする。

確か、庭にナンシーと休憩がてらに行ったあの日。いつだったろう。もう遠い日のことのような気がする。急に体が重くなって意識を話す間際、あの紫の瞳を見たのだ。あれは、間違いなくアインだった。


どうしてあの場に?書庫の時もそうだ。私が危険にさらされた時、必ず現れる。ということは、とよくない考えが頭に浮かんだ。


書庫に駆け込み、キョロキョロと辺りを見回す。

それは、使われていない暖炉の上に飾られていた。

スペンサー家に代々伝わっているのであろう剣。家紋が大きく彫られているそれを壁から取り外し、柄を握る。

剣を自分の腕にあて、思い切りひいた。

案の定、赤い血が伝っていく。これでもダメかと次は喉に剣を構えた。

柄を持つ手に力を入れた瞬間、闇に紛れてあの紫の瞳が現れ、私を感情のない目で見下ろしていた。

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