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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
13/52

ある懺悔と報復

ちょっとグロい表現があります、ご注意下さい。

鼻を刺すような臭いと息苦しさを感じて目を開ける。

薄暗くじめじめとしている。

体を起こし辺りを見回した。


「ヒヒッ、お目覚めですかな?」


「ガ、イル…」


いないはずのガイルがあの笑みをたたえてそこにいた。後ろにはディーンが変わらずぼーっと立っている。

いつもと違うのは、自室ではないということだけだ。


体が勝手に震える。


「困ってしまいますよねェ、まだまだ毒慣らしはこれから!だというのにねえ?」


「毒慣らしはおわった、と…」


少し興奮気味のガイルがまくし立てるように話していく。


「ヒヒッ、終わるはずなんてないではありませんかァ。しかしねェ、あの小僧が!勝手に中断するように申し立てしたんですよォ!」


小僧…?兄のことだろうか。


「ですから、今日で最後にしましょうねェ。ちょいと計画は前倒しですが、総仕上げといきますか…ヒヒッ、ヒヒッ」


総仕上げと言うとディーンが動く。私の両腕をがっしりと固定し、口を強制的に開けさせられる。


「いや、やめっ」


「どれくらい毒に慣れたのか教えてくださいねェ」


ガイルは手に持つ、茶色の小瓶を私の口の中に垂らした。


刹那、体がひどい痙攣を起こす。

ディーンが両腕を押えているのにも関わらず、体は暴れまわりぐわんぐわんと頭が揺れる。気持ち悪くなり嘔吐物を吐き散らす。


どれくらいたっただろうか。私にはとても長い時間に思えたが実際はほんの数十分の出来事だったかもしれない。

痙攣が少し治まった。あんなに辛かったのに私はまだ生きていた。ガイルは死の淵ギリギリの所で私を生かすのが見てうまいらしい。


「ふむふむ、なるほどなるほど…」


ガイルはぶつぶつと呟き、あのノートに書き込む。

依然、ごほごほと咳き込み虚ろな私などお構いなしにディーンは髪をむんずと掴み口を開けさせる。


「次のは少し…まあ、きっと大丈夫ですよ、ヒヒッ」


緑の小瓶が傾けられる。

その毒が喉を伝うと、焼けるように喉が熱くなりたまらず喉を搔きむしる。


「ううっ、ああ!ああっ!」


「ヒヒッ!ヒヒッ!ヒヒッ!」


掻きむしった所からは血が流れ、それとは別に血が垂れた。どこから血が流れているかなんて確かめる余裕はなくただ喉を掻きむしり、奇声をあげ続けた。


助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて


頭の中にはそれしかなく、およそ人とは思えないような奇声と狂い方をしている私の視界の端にガイルが再びまた違う小瓶を手にするのが見えた。それに合わせてディーンが私を固定する。

その瞬間私の中の何かが解き放たれる音がした。


「やめて、やめて、離せ離せ離せっ!」


叫んだ瞬間、鋭い音と共に体の拘束がなくなった。

大きな音を立てて頭が2つ転がった。少し遅れて、更に大きな音をたてて次は胴体が転がった。

切れ目からどくどくと流れる赤。


何が起こったのか理解するには時間も余裕もなかった。


「ヒヒッ!これは素晴らしいッ‼︎‼︎こんな子どもが!その体力で!叫んだだけで人を2人も‼︎流石は神に選ばれた子!黒を持つ子呪われた子!魔力などさほど持っていないと思ったがヒヒッ!これは素晴らしいッ」


素晴らしい素晴らしい、と連呼しながらこちらに迫ってくるガイル。後ずさるがガイルはまた一歩一歩と近づいてくる。


「や、やめてっ、来ないで!来ないでっ‼︎」


またあの鋭い音がした。

赤が舞い、綺麗に2つになったガイルがそこにいた。


「ひっ」


ガイルの血走った目がこちらを見ており、口元は三日月を描いている。


どうして倒れているの。どうして血を流しているの。どうして死んでいるの。さっきまで私をあんなにいたぶって楽しんでいたのに!動かない動かない!いきなり人は死ぬの?違うの?じゃあ、どうして?どうして?どうして?誰かが殺したの?誰が殺したの?なぜ私だけが生きてるの?今、ガイルは何て言っていた?


ガイルの先ほどの言葉を思い出し硬直する。


知らない知らない知らない!私じゃない!私は殺してない!嫌だと思っただけだ!それにこいつらは死んでもいいやつらだった!私だってこいつらに殺されかけた!だったらしょうがない、仕方ない、許される!罰されたのだこいつらは。そう!神に選ばれた私に対するこんな扱い方を神が許さなかったのだ。神が殺した、神がこいつらに私の代わりに罰を与えてくださった!そうに違いない!私は悪くない悪くないのだ。


「アシュリー!」


名前を呼ばれて顔を上げると緊迫した顔の兄がそこにいた。


「ちが、違うんです!私じゃない!神が!神がなさったことなんです!こいつらは殺されても文句は言えないことをしたんですっ!私は悪くない‼︎」


どこにそんな体力があったのだろうと思うくらいに兄に訴えかけた。


「大丈夫、アシュリー、大丈夫だから」


「罰を受けたんです!私をいたぶったから!神に選ばれた私を!」


狂ったように叫ぶ私の目を兄は覗き込んだ。


「アシュリー、もういいんだ。大丈夫。このことはもう忘れて、心の奥底に沈めるんだ」


「しず、める?」


急に睡魔が襲ってきた。頭が冷えていく。


「そう、なにもなかった。なにも起きなかったんだよアシュリー」


「な、にも…」


そう、なにも。という兄の声を最後に私の意識は途切れた。


*********


腕の中にいる衰弱しきった少女を見やる。


喉は掻きむしったのであろう血が止まらず流れている。


「アイン」


声をかけると扉からスッと人影が現れる。


「アシュリーを途中誰にも見つからないように部屋へ」


「御意に」


少女の頬をひと撫でして目の前の男に渡す。

男は少女を横抱きにして一礼すると闇に消えていった。


ひとつ溜息をつき、死体を見やる。

すると、ちょうど死体の心臓あたりに朧な青い光がゆらゆらと揺れていた。

それらに近づき、全ての光を取り出し一気に飲み込んだ。特に何の変化も起きることはなく、これらをどうしたものか、と思案していると場に似つかわしくない飄々とした声が響く。


「こりゃ、また派手にやらかしましたね〜」


「ツヴァイ」


ツヴァイと呼ばれた男は毒師の頭に近づき足を上げたかと思うとそのままぐしゃり、と潰した。

ぐちゃぐちゃになった頭は中身が出てきていて見ていられない。


当の本人は汚ねえ、と笑いながら靴を地面にこすりつけている。


「何やってるんだ、ツヴァイ」


非難の目を向けてやれば、へらっとした笑みが返ってきた。


「お返しっすよ、お返し。姫さんの分と相棒の分」


なにがお返しだ。頭を潰したくらいじゃこいつらの罪は軽くなんてならない。


「ツヴァイ。死人に罰なんて与えられないんだよ。残念だけど、ね」


「分かってますって、腹いせっすよ〜意外に胸がスカッとしますよ?どうすか主も」


さあ、と場所を譲られる。無残になった死体は何も語ることはない。

本当は自分がこのふざけた連中に制裁を加えるつもりでいた。あの子に見つからない場所で。だが、結果的にはいちばん最悪なものとなってしまった。

必死になって本家や王家の認証を得て、毒慣らしをやめさせたというのに。信じるんじゃなかった。自分の無力さに腹が立つ。


「ツヴァイ、馬鹿なことはよすんだ」


「はいはい。てか、主、こいつらの魔力吸い取りましたよね?」


にやにやした顔で尋ねてくる従者は本当に口が減らない。


「流石、主!仕事が早いっすね〜、てっきりアシュリーちゃんにあげるのかなって思ったんですがねえ」


「…あんな薄汚れた魔力、あげられる訳ないだろう。それとツヴァイ。馴れ馴れしくアシュリーの名前を呼ぶのは感心しないな」


「うわ、こわ。いいじゃないっすか!名前くらい、姫さんって呼び方なんか距離遠くないっすか?」


「近づく必要なんてないだろう」


「うわ、シスコン」


「何か言ったかな?」


「いえいえ!何も!なーんにも!で、どうするんすか?ここ、湿気が多いしすぐに腐っちゃいません?」


話題をそらした従者をひと睨みし、ふむ、と考える仕草をしてからぱちりと指を鳴らした。

同時に死体が燃え、一瞬にして灰になった。


「ちょ!危ないじゃないっすか‼︎前髪、焦げましたよ⁈主‼︎」


ぎゃーぎゃー騒ぎ立てる従者を無視して、さっさと階段を上る。後に続いてくる従者は相変わらず、前髪がと喚いていたがチラと視線を寄越すと押し黙った。


そんな自分たちの後ろ姿を、灰にならなかった充血した目玉だけが見つめていた。

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