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レディ・アシュリーは踊らない  作者: 癒華
幼少期篇
11/52

地獄の地獄

今回のお話は、残酷な描写やぬるい表現があります。苦手な方はスルーして下さい!

毒慣らしが始まって、4日目までは微かな手足の痺れを伴うだけだった。

ガイルはその症状が現れ始めた時にいつもタイミングよく現れ、私に様子を聞き、懐から出した薄汚れたノートを出し何やらブツブツと呟きながら書き込んでいた。

毒は毎度の食事に必ず入っている訳ではないようで、症状が現れないなと思った時はガイルは現れることはなかった。そのことも、私の恐怖を倍増させていた。


5日目からは、ひどい吐き気と痙攣がした。これは一口、二口食べると症状が現れる即効性のある毒だった。ガイルは私が苦しみ出した時に来てはノートに書き込んでいった。

その毒は二日間続いた。


毒慣らしが1週間を過ぎ、2週間目に入った時毒の副作用は更に酷いものになり、常にそばにいたナンシーも姿を見せなくなった。


8日目

この日の毒は、三度の食事を終え眠りについた真夜中に症状が現れた。

汗が止まらず、寒気がとまらない。誰かを呼ぼうとしたが声が震えて大きな声が出せない。そんな時、扉が開かれガイルが入ってきた。寒さで震えている私などおかまいなしに症状を聞き出し書き込む。

端から見ると異様な光景だったと思う。


次の日になってもその症状は治らず、高熱が3日続いた。その間も毒のリゾットを出され、食べ続けた。


熱が引くと、容赦なく次の毒が用意された。


食べた瞬間に吐き気に襲われる。だが、吐き気に襲われる私を知ってかガイルのあの不気味な笑みと目が私を見つめる。

その目に見つめられると自然にスプーンを持ちリゾットを口に運んでいる自分がいた。

だが、一口食べるたびに吐き気に襲われるため最後には全てをかきこんだ。

刹那、食べたもの全てを吐き出した。だが、一度だけでは治らずその後何度もなんども吐き続けた。最後は胃液だけが吐き出された。口内は胃液で溶け、火傷した状態になってしまった。


その次の日は、昼頃になると体に力が入らなくなった。筋肉が緩みきり、寝たきりになる。筋肉が動かないので、閉まらない口の端からは涎が目からは涙が流れていく。声を出そうとしても意味のなさない呻きだけが発された。

そんな私の悲惨な状態をガイルはやはりにたにたと笑い、ブツブツと不気味に呟きながらあのノートに書き込んでいく。

さながらここは地獄だった。


そんな状況で食事などとれるはずもなかった。食事の時間が迫るたびに恐怖し、震えた。

それを見越したガイルはその日、いつも1人で来ていたというのにディーンを連れてきた。


「さァ、ディーン、言った通りにするんだよォ」


ガイルがそう声をかけると、ディーンは力ない私の両腕をがっしりと掴み、体を起こさせた。なるほど、こういう時の2人だったのか。

ガイルが口元に水を運び、開いて閉まらない口にそれを流し込んだ。

最後の力で必死に飲みこもうとしない私の口を右のディーンが塞ぎ、苦しさのあまり飲み込んでしまう。ということがグラスの中身がなくなるまで行われた。

その間、私の唸り声とガイルの笑い声だけがその部屋を満たしていた。


ひとり取り残された部屋で思う。

もう自分は死んでいるのではないか、と。だが、微かな自分の胸の上下と疲労感を感じ、まだ生きていることに絶望した。

未来の王妃になるということは、こんなにも耐え難いものの連続なのだろうか。私の王はどこにいるのだろう。きっと私と同じこの痛みや苦しみを味わっているこの世界でただひとりの理解者を思い、また1日を終わらせた。


目覚めると、ナンシーが泣きながら横にいた。


「ア、アシュリー、様っ、ううっ」


きつく握られた手の感覚すらもうほとんどない。

ナンシーの後ろにもう一つの人影があった。

それは見慣れた治癒師だった。


「今のアシュリー様はあまりにも危険な状態。あの毒師の許可を得、お体を治癒させていただきます。」


そう言って、癒しの手を私にかざす。

緑の光が私を包む。すると、体がだいぶ楽になり、筋肉が少しだけ戻った。


「これが今できる限界です。お許しください」


治癒師は眉間に皺を寄せ深く頭を下げ、そのまま部屋を出て行った。


流石にそれから数日間、食事は毒なしだったが、食事を見ただけで私は泣き叫びそれを拒絶した。

治癒師の癒しの魔法により自力で何とか起き上がれ、声を少し出せるようになっても拒食は治らなかった。

食事をとらない分、体力回復は遅れたが魔法の力で何とか最低限の栄養は取ることができた。


精神的にも身体的にも擦り切れてしまった頃、焦がれていた兄が帰ってきた。


兄は私の姿を見て、怒りに近い表情で顔を顰めた。

お兄様、と声を出したかったがうまくいかない。

近づいてくる兄の手元には湯気の立つシチューとパンがのったトレーがあったが、それを見た瞬間私は恐怖し、兄を拒絶した。


「アシュリー、大丈夫だよ」


優しく抱きしめてくる兄から逃れようと抵抗するがこんな弱い力では兄の手から抜け出せるはずもなく、ただジタバタと動いているだけだった。

そんな私をあやすように髪や背中を優しく撫でられると次第に落ち着き、抵抗する気もなくなってしまった。


「アシュリー、こんなに痩せてしまって、ごめんね、アシュリー」


ぎゅっと力を込めて抱きしめられる。こんな兄の悲痛な声を聞くのは初めてだった。


「アシュリー、この食事はね、私の部下に作らせたんだ。だから毒なんか入っていない。だから、ね?」


いやいや、と首を振り必死に抵抗する。

兄は一つ深いため息を吐いた後、パンを一口齧り少し咀嚼してから私の顔をグッとあげ、そのまま私の口に押し込んだ。


兄の顔が目の前にあり驚いたが、兄と同じものを食べているという事実に安心し、それを嚥下した。

兄はそれを見て安堵したように息を吐き、また一口また一口と同じように口移しで食事を与えていった。


「アシュリー、水も飲もう」


「んんっ、」


兄の体温によって温められた生温い水を飲み、食事はおわった。


久しぶりに食べた食事の味はよく分からなかったが、お腹が満たされていることを感じることができ、そこで自分はお腹が空いていたんだと知った。


この兄との口移しによる食事はずっと続いた。

毒慣らしは兄がいれば、行われないのだと頭が勝手に理解し兄が帰って私の側を離れようとすると幼子のように駄々をこね、その腕に縋った。

兄は今まで一切我儘を言わなかった私のその態度に驚いた様子だったが極力、側についていてくれた。


「お兄様、喉が渇きました」


そう言うと兄は苦笑しながらグラスに水を注いだ。


「アシュリー、いつまでも甘えてなんかいられないんだよ?」


さあ、と差し出されたグラスに首を振る。

じゃあ、と兄は水を一口含み、そのまま飲みこんだ。


「ほら、アシュリー、飲んでもなんともない。大丈夫だよ」


再び差し出されたグラスにも首を振った。

アシュリー、と怖い声で兄が名を呼ぶ。ふるふると首を振ると頭の上で深い溜息が聞こえた。

今回だけだからね、と兄は口に含んだ水をそのまま飲ませてくれた。


「ん…、もっとっ、お兄様」


溜息をつきながらちゃんと水をくれる兄は、やはり優しい。


「お兄様、ごめんなさい」


飲み終わった後に誤ると苦笑しながらも頭を撫でてくれるその手についつい甘えてしまう。

いつまた毒慣らしの日々が始まるかも分からないのに今はただ、その優しさに包まれていたかった。

次回、酷いのがまだ続きます。。。グロが入る予定です。

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