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減量

作者: 六佳

俺の名前は大山田太一郎


プロボクサーだ。



3ヶ月後にタイトルマッチに挑戦する。



俺も32歳、ラストチャンスだ。



ボロボロになりながらもA級トーナメントを勝ち上がることができた。



ボロボロになりながらも、とあるが、一番きついのが減量だ



正直、毎回リミットギリギリでリングに上がっている。



とにかく鶏ガラみたいな身体になってしまう。


いくら筋肉をつけたくても、試合前にはすっかり皮と骨だけの身体になってしまう



こんな身体で殴り殴られするのだ。


年齢もだが、肉体的にもギリギリだろう。


階級をあげようか、とも思ったが、逆に筋肉をつけきれなかったり、動けなくなってしまう。



つまり、きつい話だが、今の階級がベストだ。


実は妻も子供もいるのだが、タイトルマッチ戦は反対されている。



A級トーナメントの決勝戦も打ちつ打たれつの最後は判定で辛くも勝ちを拾った。



その後、意識をなくして熱も下がらず、二週間は入院していた。


若いときはこうではなかったが…年はとりたくないものだ



妻と子供の心配も当然か…


今日もひたすら走る。


身体中から水分という水分がなくなっていく。


正直、自分も今のチャンピオンに勝てるとは思えない。


クラッシャーと呼ばれるチャンピオンで13戦13KOの破壊力。



まともにリングを降りれれば良いが…


いつものことながら、水が飲みたい…



矛盾する話だが、チャンピオンに勝ちたいと思う反面、無事にリングを降りたい、と思う。



どちらも妻と子供のため、だ。



それにしても水が欲しい…


試合はあと一週間後…



だめだ、目の前がぼやけてきた…




「おい、お前」


減量のしすぎだろうか幻聴が聞こえる


「おい、見えてるだろう?」


だめだ…目の前がかすむ


黒い変なものが浮いてるのが見え…る…!?


「そうだ、お前だよ」



そいつは、突然目の前に現れた。


黒い体、黒い羽、鋭い爪に牙、大きなフォークみたいなものを持って、パタパタ浮いている


身長?は50センチくらいか?


見た感じ、悪魔、に見える…



「そうだ、悪魔だよ」



!!心が読めるのか?


「当然だ、悪魔なんだからな、心くらい読めて当たり前だ、人間」


…声は、案外、可愛いのだが…


「…!う、うるさい!人間!魂を喰うぞ!」


あまりに突然の出来事だが、俺に悪魔の知り合いなど心あたりはない。



「俺になんのようだ?」


「クケケ、話が早いな、取引しないか?」


「取引?」


「ケケケ、そうさ、お前を次の試合、勝たせてやる」


「ふん、そのかわりお前の命を貰う…か?」



「ケケケ、話が早いな、お前!どうだ?」


「どうだも何も話にならない、確かに勝ちたいが、それで死んでしまっては意味がない」

「大体、勝たせてやる、といってどんな方法を使うつもりだ?」



「ケケケ、そりゃあ試合が始まったらこの俺がチャンピオンの命を刈り取って…」



「それこそ話にならないぞ…」



ボクシングの試合は確かに生死に関わるが、ほんとに死人がでたら、それはそれで後味が悪い…



「そもそもなんで俺のところなんかに?もっと他に悪魔の力を欲している奴はいるだろう」


「サラリーマンとか、ビジネスマンとか…」




「ケケケ、確かに俺の力が欲しい!と思ってる奴は多いだろうな」



「なら、そっちへ行け。試合は十中八九俺が負けるだろうが、ラストチャンスだし、正々堂々と戦ってる姿を家族に見せたい」


「ケケケ、正々堂々、ね…」



「なんだよ、その言い方」



「チャンピオンが実は不正をしている、としたら…?ケケケ、どうする?」



「は?」



振り返ってロードワークに戻ろうとした俺はついまた立ち止まる



「ケケケ…実はチャンピオンにも憑いてるのさ、悪魔が、な」



「…なんだと!?」



「ケケケ、実はその悪魔は俺の同期でね…旨いことやってるよ」


「詳しく聞かせてもらえないか?」



「いいだろう、ケケケ…」



どうやら悪魔は区域制でこの世界にきているようで、短絡的に願いを叶えてすぐ魂をいただくよりは、その人間を長く満足させた上でむしろ喜んで魂を提供してもらう方が良いとされているらしい…


「ケケケ、俺は考えるの苦手だからな、大体にして取引自体が成立するのが稀でな」



「そんな時、同期のアイツの活躍を聞いてここへ来たんだよ」



「なるほど、、」



悪魔の話によると、おそらくチャンピオンは


悪魔に凄いパンチ力を与えてもらうかわりに、負けたら命を差し出す、


という類の契約を交わしているのだろう、と言っていた



命を差し出すだって…!?と言いかけたら



「ケケケ、その代わり勝ち続けたまま引退すりゃあ人間のほうの勝ち逃げだ」



「ま、確率は低いがな…ケケ…」


「なんだと?契約にそんな抜け道みたいなものが…」


案外、悪魔とは優しいものなのか…?


声も可愛いし…



「おい!声はほっとけ!ケケケ、まあそうそう上手くはいかないものだがな…」



「まあ、負けたら命はもらうんだし、…おっとこれ以上余計なおしゃべりはなしだ…」



「…俺にも」


「俺にも同じような条件で契約できるか?」



「ケケケ、勿論だ」



「ケケ、で、内容はどうする…?」


圧倒的な破壊力でKOを積み重ねているチャンピオン…



しかし、タネがわかれば…



「じゃあ、俺はスピードを早くしてくれ。動態視力や反射神経とかも含めた肉体的なスピードだ」




スタミナやパンチ力はそのままだが、これでいい


どんなに破壊力があっても当たらなければ良いのだ


しかし…


「なあ、俺が勝ったら、チャンピオン、本当に命を奪われるのか?」



「ケケケ、まあそういう契約だからな、出来る限り自然死の形をとるから心配すんな」



「ケケケ、大体チャンピオンだって負けるつもりで悪魔と契約なんか交わしてねーだろ」



「ケケケ、俺様だってお前が負けたらお前の命をもらう…相手の心配をする余裕なんかないはずだが…」




「それもそうだな…」



試合当日ーー



結論からいうと、俺は勝った



チャンピオンのパンチをすべて紙一重で交わす



紙一重でかわせる身体能力を貰っているからスタミナの消費も少なくてすむ


あとは軽いパンチをぺちぺち当てていくだけだった



結局フルラウンドでストレートの判定勝ちをひろった




「こんなボクサーがいたなんてな…」チャンピオンの顔はすっきりした顔だった



「負けたぜ、次は俺が…」


と言いかけてチャンピオンは



「…っと、次はないか」と小さく呟いた



チャンピオンも悪魔の力を貰っていたが故の強さもあるだろうが、俺の勝利も、悪魔の力によるものとはまさか夢にも思うまい…



一週間後、心臓麻痺でチャンピオン(おっと、元チャンピオンか)は亡くなった




「ケケケ、どうしたんだ?」


ロードワークの途中、立ち寄った公園でふと新聞を見て、元チャンピオンの死亡を知って、物思いにふけっていると



悪魔が話しかけてきた



「いや…俺だって負けられない、家族もいるしな」



「ケケケ、まあこれからずっとお前にはスピードの力を与えてやるよ…負けるまで、な…」




俺は、気づいていなかった



なぜ、契約するときに、その可能性に気づかなかったのだろう…



チャンピオンが亡くなって翌日ーー



ロードワークをしている新人ボクサーの前にーー



「ククク、おいお前、俺と契約しないか?」



その黒い影は現れた…







ーー終わりーー


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― 新着の感想 ―
[一言] 魂の減量、とかだったらタイトル通りだったかも。 じわじわ魂を削り取っていってその分だけ力に変える、みたいな 悪魔らしい気まぐれさとしたたかさを含めたオチも申し分ないです
2016/07/20 14:01 退会済み
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